テリー じゃあもうみんな、右翼という「店」を構えていないんだ。わざわざ右翼になって街宣車に乗らなくても、普通にスーツを着て、ネットで発言できると。それがいわゆる「ネット右翼」ですよね。
鈴木 そうですね。昔は一般の人が社会に不満を持って意見を言おうと思ったら、新聞とか雑誌に投書しますよね。それがあまりにも差別的だとボツになります。そういう意味で、一般の人に完全な言論の自由はなかったと思う。でも今は、インターネットが普及したので、直接言論の自由なんです。
テリー 1人で、自由に好きなことを書き込めますもんね。
鈴木 いいことも書けるし、逆にどんな差別的なことでも書ける。言論の訓練をしていない人間が、突然100%の言論の自由な場を与えられているので、混乱しているのが今の状況だと思うんです。
テリー 本来の右翼は、やはりネット右翼とは違いますか。
鈴木 そうですね。そもそも、街宣車で言っていることって、実は、そんなに過激じゃないんですよ。「日の丸を大切にしよう」とか「親孝行をしよう」とか。
テリー 何かあれば捕まってしまいますしね。
鈴木 はい。あとは街宣車で演説するには、まず許可を取らなくちゃいけないし、さらに発言も全て公安にチェックされている。とにかく大変なんです。でもネットだと安全だから、どんなことでも思い切って言えるんでしょうね。
テリー 大久保あたりでは、ヘイトスピーチと呼ばれる、韓国人や在日の人を差別するデモが激しいですよね。
鈴木 右翼ってああいう差別的な発言はしないんです。というのは、右翼には在日の人もいますから。それから自分たちは「右翼」として周りから差別されているから、差別されている人の気持ちが逆にひしひしとわかりますからね。それに街宣車で演説していて、若者がうっかり差別的なことを言ったりすると、上の人から注意されるんです。
テリー ああ、先輩が指導するんだ。でもどうして、ヘイトスピーチという現象が出てきちゃったんでしょうね。
鈴木 やはり、ネットの普及は大きいと思います。ネットで募集して、ある日、似た主張同士の人間で街頭デモをやる。同じ主張を、個人で週刊誌や日刊紙に投書しても消されます。だけど、彼らは既存のメディアを通さずに、しかもグループになって主張する方法を得たわけですから。
テリー 大手のマスコミで、ヘイトスピーチがあること自体を扱わないところもありますもんね。
鈴木 僕は去年、外国特派員協会に呼ばれて話をしたんですが、アメリカの記者が質問してきて、世界中のマスコミは震災以降、日本人に敬意を表してきたが、大阪の鶴橋でのヘイトスピーチ以降、世界中が日本を批判していると。
テリー 鶴橋で、どんな発言があったんですか。
鈴木 僕もその質問を受けて、あとからネットで見たんです。すると1人の女子中学生が「ここにいる在日を全員殺したい」「鶴橋大虐殺をやります」と。「それがイヤなら日本から出ていけ」と街頭で話している。日本では差別発言だからテレビには出てこないけど、ネットで見られるので、この様子が世界中にどんどんと流れている。
テリー 日本のイメージダウンですよね。
鈴木 これからオリンピックで外国人を呼ばなきゃいけないのに、そういうデモをやってていいのかと思いますね。
テリー 法律で規制しろという意見もありますね。
鈴木 僕はそれには反対なんです。警察に判断する権力を与えちゃったら、逆に「これは安倍政権批判だからダメだ」とか、勝手に使われてしまいますよ。
テリー どうすればいいと思いますか。
鈴木 差別は恥ずかしいことだと、みんなが認知すればいいんです。そのためには、ヘイトスピーチの存在について、テレビも新聞も全部きちんと報道すればいいと思うんですよ。彼らは大手マスコミから無視されることによってこそ、生きているんですから。