6月11日、夜9時からフジテレビ「土曜プレミアム」枠で、是枝裕和監督の映画「万引き家族」が放送された。
国内外の数々の映画賞を総ナメにした話題作。6月24日の是枝監督最新作「ベイビー・ブローカー」公開を前に、その宣伝も兼ねて放送されたわけだが、テレビでタダで放送するなら見てみようかな、と軽い気持ちでチャンネルを合わせた人は多かったのではないかと察する。
その結果、SNS界隈がなにやらザワザワし出したのだった。コロナ禍で「家族のあり方」について改めて考えさせられた、というような話かと思ったら、そうではなく…。
「万引き家族、親と見るの気まずい」「子どもと見てたら、気まずい展開に」などなど、「#万引き家族」「#気まずい」というワードで溢れ返っていたのだった。
問題なのは、松岡茉優演じる亜紀が、怪しげな下半身店でのマジックミラー越しのシーンと、治(リリー・フランキー)と信代(安藤サクラ)がスッポンポンでいちゃついているシーン。19年に地上波で初めて放送された時にも、話題になったのだが…。
最初からその手のシーンがウリの映画なら、家族で見ることもなかったのだろうけど、それよりも「カンヌ国際映画祭最高賞パルムドール受賞」の看板が大きすぎて、そちらのほうは話題にもならなかったということもあり、こうした「不幸」が起きたということになる。
そういえば、数年前にも似たようなことがあった。細田守監督アニメ「おおかみこどもの雨と雪」が日本テレビ「金曜ロードショー」枠で放送された際、主人公の女子大生・花と「おおかみおとこ」のベッドシーンに、お茶の間が凍り付いたのだった。
それで思い出したのが、伊丹十三監督の「お葬式」だ。たしか「ゴールデン洋画劇場」の枠だったと思う。話題の映画がテレビで放送されるとあって、家族で楽しみに待ち構えていたのだが…。
山崎努演じる主人公と不貞相手(高瀬春奈)が葬儀を抜けて、山だか林だかでいきなりイタシ始めたのだから、家族全員が無言になり、まさにお茶の間は氷河期へと突入。
高瀬の喪服の裾をたくし上げて後ろから突き上げる山崎。そして高瀬の妙に色っぽいアノ声。それに喪服姿の妻(宮本信子)がひとりで乗ったブランコが揺れるたびに軋む音が妙な相乗効果を生み、視覚的な刺激と相まって、妙に記憶に残っている。正直言って映画の内容は覚えていないが、このシーンだけは鮮明に記憶に残っているのだ。
その時はなんだかわからなかったが、時が経てば、あのシーンはそういうことだったのか、とわかる日がくるってものだ。家族で凍りついて気まずかったことも、今となってはいい思い出。なんでもかんでも目くじら立てず、もっと寛容になればいいのに、と思う。
(堀江南)