──同世代の男たちを見てどう思われますか。
伊集院 本当に団塊の世代はダメだね。
──ダメですか。
伊集院 ダメだよ。集まると政治の話どころか、「いつ死ぬかわからないので、またゴルフを始めました」なんて話題ばかりだから。団塊世代って、じつは70年安保のデモに参加していないんだよ。人びとがデモにいちばん参加したのは50年代にあった安保反対闘争(60年安保)だから。70年安保闘争は早い時期に尻すぼみになったんだ。盛り上がったのは60年安保で樺美智子が死んだとき。そのときの首相が岸信介だったけど、「じゃあ次は孫の安倍晋三だ」という論理にはならないよ。それはどうしてかというと、日本人が軟弱になってきたから。
──軟弱ですか。
伊集院 日本人が思慮浅くなったから。ものごとを深く考えず、何でもすぐついていくことになったから。日本人がオノレのことしか考えなくなったから。そもそも国民というのはそういうものだと思うよ。
──しかし、一方で、「グローバリズムだ。TPPも参加したほうがいいんだ。世界から取り残されるぞ」と言いながら、その一方で「朝鮮人は出ていけ!」と排外主義になる。言っていることはむちゃくちゃじゃないですか。
伊集院 生きる軸を失っている。ただ、大人としては、そうではない若者が今の時代にもいて、彼らはきちんと生きていこうとしている、と信じるしかない。彼らにメッセージを送っていくしかない。そういうきちんとしている人の声は、やがて大衆を引率できる声になるから。そこで必要なのが友情なんだよ。あいつが言っていることだからオレは信じよう、という気持ちだね。
──「愚者よ──」の男たちのように、「あいつがいる。あいつに対して恥ずかしい生き方はできねえぞ」という気持ちですね。
伊集院 あいつに出会えたことがオレの誇りなんだ、今はどこで何をしているか知らないが、きっとちゃんと生きているよ、と。
──それが聖人君子でもなければ、偉業をなしとげた男でもなく、もちろん大金持ちでもない。世間的には愚者と呼ばれる生き方をしているんだけど、でも「あいつにはかっこ悪いところは見せられない」という美学がいいですね。
伊集院 今「めちゃくちゃだ」とあなたが言った、世間の大半の人たちに、「お前たちが愚者と呼んだ男たちはこいつらだよ、でもオレは愚者が愛おしくてしょうがない。なぜなら、大衆よ、お前たちが本当の愚者だからだ」という気持ちがあるんだよね。
──被災地の復興も先が見えず、原発問題はさらに先行き不透明です。にもかかわらず、東京を中心として2020年にオリンピックがあるぞ、とはしゃぎつつある。冷静に考えると、どこに希望を持てばいいのかわかりません。
伊集院 仙台のわが家も半壊したままです。被災地の復興が取り残されたままというのはそのとおり。でも私の考えは、人に頼らず自分でやっていこう、お上にも頼らず自分でやっていこうというもの。もしもお上が、「こっちに住め」と強制しようとしたら立ち上がれ。他人や行政が、金も出してくれる、いろんなことをしてくれる、などと思わないことだ。そんなことは歴史上、一度もないから。津波が来たことは何度もあるけど、お上が何かをしてくれたことは一度もない。
──最後に、読者にメッセージを。
伊集院 自分の生き方は間違っていないということをちゃんと検証しなさい。発言しなさい。不埒なことがあったら、「それは違う」と、よその子供であっても言え。この国を、よくするのも悪くするのも、それはあなたが孤になったとき、1人になったときにしたことが、全部国家にあらわれる、ということです。
〈聞き手 永江朗〉
◆プロフィール 伊集院静(いじゅういん・しずか) 50年山口県生まれ。72年立教大学卒。81年短編小説「皐月」でデビュー。92年「受け月」で直木賞、94年「機関車先生」で柴田錬三郎賞、02年「ごろごろ」で吉川英治文学賞を受賞。「いねむり先生」「ノボさん」など著書多数。