チーム低迷の中、一人怪気炎を放つのが、エンゼルスの大谷翔平。長年、番記者を務めてきた米国人記者が監督やGM、同僚選手を取材した評伝が話題となっている。中でもスランプ最中の20年オフ。大谷を取り巻く環境に大きな変化が起き、見事、二刀流覚醒に繋がったのだ。果たして、その「3大事件」とは何か。著書を元に、大谷の偉業を今一度振り返ろうではないか。
大谷翔平(28)の勢いが止まらない。投手としては、前半戦最後の登板となった日本時間14日のアストロズ戦で昨季の自己最多に並ぶ9勝目をマーク。打者ではすでに19本塁打を放っており(21日現在)、昨年逃した1918年のベーブ・ルース以来となる「2桁勝利、2桁本塁打」の偉業にあと1勝と迫っている。
日本時間20日のオールスター戦にも、堂々のファン投票で出場し初安打を放った。日本人のオールスターでの安打は、松井秀喜、イチロー以来13年ぶり3人目の快挙。
そんな大谷の番記者が渡米直後から密着して綴ったのが「SHO─TIME 大谷翔平 メジャー120年の歴史を変えた男」(徳間書店刊)だ。所属するエンゼルスのGM、元監督、チームメート、他球団の選手のコメントを通して大谷の人物像を浮かび上がらせる内容となっている。
著者のジェフ・フレッチャー氏は、カリフォルニア州アナハイムを拠点とするオレンジカウンティ・レジスター紙の記者。MLB(メジャーリーグベースボール)取材歴24年、米野球殿堂入りを決める投票資格も持っている。2013年からはエンゼルスを担当。MLBジャーナリストのAKI猪瀬氏は次のように話す。
「報道陣の中でも名の通った記者の1人です。ロサンゼルスには人気球団のドジャースもありますが、オレンジカウンティ・レジスター紙はエンゼルスの報道に力を入れています。ファンや関係者の間ではオレンジカウンティ=エンゼルスという評価が定まっており、そのエースがフレッチャー氏です」
そのフレッチャー氏が大谷のルーキーイヤーから4年にわたり密着して書いただけあって、読みどころは豊富。詳しい内容は読んでからのお楽しみだが、本稿では、同氏が大谷の転機になったと指摘する2020年オフの「3大事件」に焦点を当て紹介しよう。
日本の一般的な野球ファンは、大谷が渡米以来、順風満帆に活躍してきたという印象を持っているだろう。だが、MLBでのデビューから3シーズンは「苦闘」を続けてきた。原因は度重なる故障だった。
例えば、ルーキーイヤーの2018年。4月と5月は、圧倒的な飛距離を伴う本塁打とマウンドでの大活躍を見せ、MLBでの成功に疑問を呈する者が誰もいなくなるほどだった。ところが、6月に内側側副靱帯を痛めていることが判明。以後、投手としてマウンドに立ったのは1度だけだった。打者としては、打率・285、22本塁打。打者を評価する指標の一つであるOPSは、ア・リーグで300打席以上立った選手の中で6番目の.925だった。
「ルーキー打者としては及第点の成績でア・リーグの新人王にもなったが、ファンが期待し、本人も望んでいた二刀流での活躍を見せることはできなかった。この年のオフに大谷は肘の再建手術を受けることとなりました」(メジャー関係者)
2年目となった2019シーズンは、前年オフに受けた手術の影響で投手としてマウンドに上がることができず、打者のみの出場で過ごすことに。数字的には1年目とほぼ変わらぬ成績を残したが、後半はスランプに陥った。最後の53試合で本塁打はわずか4本。打球を高く打ち上げられないことは深刻な問題だった。メジャー関係者が続ける。
「原因は、スプリングトレーニング以来悩まされていた左膝の故障。大谷は、生まれつき二分膝蓋骨だった。本来なら幼児期に一つに融合される膝の皿が二つに分離されたままなのです。それまでの大谷は、その状態でも問題なくやってこられたが、この年の春から不調を感じるようになった。結局、9月半ばに手術を受けると発表。残り15試合を欠場する形でシーズンを終えました」