ところがここにきて、トミー・ジョン手術の可能性は低いのではという見方が広がっている。猪瀬氏が解説する。
「エンゼルスのチームドクターであるスティーブ・ユン医師は、ロサンゼルスのカーラン・ジョーブ整形外科クリニックから派遣されているのですが、この病院はスポーツ医学の分野では全米トップクラスと評価されている病院です。中でもユン医師は、外科的手術を行わず科学的療法で治すという手法の第一人者です。このユン医師が『トミー・ジョン手術ではなくPRP療法(自身の血液から作製した血漿を注入する療法)で大丈夫』という見解を出している。このことは、大谷の症状が当初報じられているほど重篤ではない証拠と見ていいでしょう」
実際、エンゼルスのソーシア監督も、手術の可能性を否定。こうした点を考えると、早ければ7月上旬、さしあたって打者としての復帰はありうるというが、
「7月17日にはオールスターゲームが予定されていますが、大谷は現在、指名打者部門でファン投票の上位につけています。仮に選出されれば、プレーはしないまでも現地に行って、後半戦からの完全復帰を宣言するかもしれません」(猪瀬氏)
この最良のシナリオが実現すれば、ファンにとっては何よりの朗報だ。一方で、今回の故障が後半戦、さらには来季以降の起用法に影響することも懸念されている。大リーグ事情に精通する球界OBがこう語る。
「故障明けの大谷に対してはローテーションや投球数などを再考する必要が出てくる。そうなってくると、首脳陣も『しばらく打撃に専念させよう』という考えになってくるかもしれない。左打ちの大谷にとって、打撃の際に右肘にかかる負担は小さいですからね」
はたして、二刀流という起用法について、もう一度見直されることはないのだろうか。古内氏は次のように見立てる。
「右肘がダメなら打者に専念すればいいじゃないかと考える人も多いと思いますが、コトはそう単純ではありません。ヤンキースを含めた10球団以上のオファーから、大谷がなぜエンゼルスを選択したのか。待遇などでは、他にも好条件を出した球団があったはず。エンゼルスが大谷を獲得できた背景には、起用法を巡る“約束事”があったと見るべきです。『投手で通用しなかったら打者だけ』とか『投手だけ』といった、どちらか一方での起用法は契約に盛り込まれていない可能性が高い。つまり、大谷には『ゼロ』か『二』しかない。一刀流で起用され続ける可能性は低いと思います」
いずれにせよ、今や大リーグ屈指の逸材となった大谷。「二」にせよ「一」にせよ、早期の復帰が待ち望まれている。