他の人がやっていても見つからないのに、その人が何かやると、不思議と必ずバレてしまう。世の中には、そんな「間が悪い人」というのが存在するものだ。
98年11月、賭け麻雀容疑で逮捕され、12月2日夜、本人曰く「人生初」の記者会見を開くことになった漫画家・蛭子能収も、そんなうちのひとりかもしれない。
11月20日午後、番組収録を終え、風邪で寝込んでいる夫人に買ったリンゴを手に、娘との待ち合わせ場所に向かった蛭子。しかし時計を見ると、待ち合わせの8時には、まだ2時間ほどある。そこで時間潰しのために入ったのが、行きつけである東京・歌舞伎町の麻雀店だった。
「俺、もう麻雀がすごい好きで。いつも負けてたけど、あの日だけはツイていたんですよ。1回目はトップ。次も『西』のドラ3つで満貫が確定。ウキウキしてた時ですよ、警官が来たのは」
蛭子によれば、「そのまま動くな!」と警視庁碑文谷署の警官がなだれ込んできたのは、卓を囲んでから30分後。9000円ほど勝って、これからというところだったというのだが、
「(賭場という感覚は)俺の中ではあんまりなかったです。ポケットの小遣い銭でゲームをして、景品代わりにお金をいただく感覚で。だから逮捕された瞬間、人生が終わったと思いましたよ。ただ、娘との約束が気がかりで、電話させてくれるように頼んだら『逮捕されたことはしゃべるな』と言われて、警察官立会いで、帰れないとだけ伝えました」
この摘発は、同店で暴力団がらみの麻雀賭博が行われているとの情報で行われたようだが、捜査の結果、その事実は確認されず。掛け金が小さかったことで翌早朝、全員が釈放されたという。
「レートは1000点200円。ハコテンで1回ビリになって1万円。通常だと思うんですよね。地方だと100円だから、それに比べれば高いんですけど…」
まぁ、世間相場はどうであれ、刑法上の違反があったことは事実だ。碑文谷署に取材すると、
「1000点200円としても、金銭をかけた時点で法律違反。娯楽の範囲を超えた金額のやり取りと判断し、逮捕しました」
警察からは「マスコミからの問い合わせがあっても、逮捕の事実は発表しない」と説明されていたようだが、結果、10日余りでバレてしまい、会見まで開くことになった。
「本当は謹慎したくないんですけど、新聞にあんなに大きく書かれちゃったら、謹慎するしかないです」
間が悪いだけなのか…。勝ち分、9000円の代償は大きかった。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。