加齢と共に発症リスクの高まる「白内障」と「認知症」。この2つの病気には意外な関連性があるのをご存知だろうか。
「白内障」は、眼の中のレンズの働きをする水晶体が濁ってしまう疾患だ。症状は、視力低下のほか、視界が曇りぼやける、眩しく感じる、物が二重に見えるなど、個人差はあるが、よほど進行しない限り、完全に目が見えなくなる可能性は少ない。
一方、「認知症」は何らかの原因により、記憶や思考の認知機能が低下し、日常生活に支障が出る状態だ。
近年、米国の大学で、視力が悪くなると認知機能のレベルが低くなることが明らかになった論文が発表された。これによると、白内障患者が視力手術を受けなかった場合と比べて、受けた場合は認知症のリスクが低かったという。
「白内障」手術をすると認知機能が改善する理由は次の2点だ。
まず、私たちの脳に送られる情報のうち、約80%は目を通して入ってくると言われている。目が見えにくくなると、必然的に脳に送られる情報量が減り、受容する刺激が乏しくなる。その結果、認知機能が低下してしまうのだ。
もうひとつは、ホルモンバランスの乱れだ。通常は、光が網膜に届くことで脳下垂体などからホルモンが分泌されて体内時計が正常に働く。ところが、「白内障」を発症すると、眼の水晶体が濁ってしまい、光が網膜に届きにくくなる。そのため、睡眠ホルモンであるメラトニンが正常に分泌されず、不眠になり認知機能の低下が引き起こされてしまうと考えられている。
ちなみに、「白内障」の他に、加齢が原因の目の疾患には、緑内障や加齢黄斑変性症があるが、これらには認知機能の低下は見られないという。これは網膜への光の届き方の差が起因していると考えられている。
田幸和歌子(たこう・わかこ):医療ライター、1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経てフリーに。夕刊フジなどで健康・医療関係の取材・執筆を行うほか、エンタメ系記事の執筆も多数。主な著書に「大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた」(太田出版)など。