頭では理解していても、体は簡単に言うことを聞いてくれません。ましてや、大観衆の中で打席に立てば誰もが自然と力みます。意識としては、70~80%の力で振る感覚で、実際には100%の力で振っている感じでしょう。最初から100%と思えば、自分の能力を超える120%のスイングになってしまい、バランスが崩れます。当然、ボールに当たる確率も低くなってしまいます。腹八分のスイングを心がけることが大切なのです。
この微妙なさじ加減を覚えるには、練習で意識するしかありません。どうすればムダな力を抜いた飛ばせるスイングができるのか、いろいろと試せばいいのです。
呼吸法も有効です。私も若手の頃に田淵さんから、打席での呼吸の大切さを教えてもらいました。鼻で吸って、口で吐く感じです。やり投げや円盤投げなどの投てき競技で、投げる瞬間に「雄叫び」を上げるシーンを見たことがあると思いますが、あれも理にかなっているのです。声を出すということはつまり、息を吐き出すことです。「雄叫び」は単に気合いの表れではなく、ムダな力みを消し、最大のパワーを引き出すことにつながっているのです。
私が育成を手伝っている二軍でも、若手に打席での呼吸のしかたを教えています。「打つ瞬間に口を開けてみろ」とアドバイスする時もあります。実際の試合では、自然と歯をグッとかみしめてしまいます。練習では口を開けて打つことで、力の抜けたヘッドの走るスイングの感覚を覚えてほしいのです。脱力がうまくできれば、一軍昇格の道も開けてくるはずです。
良太も昨季まではトップの時点から力が入り、スイングのバランスを崩す傾向がありました。力むことで右足体重となり右肩が下がったアッパースイングとなることが多かったのです。今季、ここまで3割以上の打率を残せているのも、脱力スイングでレベルに振れるようになったからです。
阪神の強みは、その良太でさえ、レギュラーを保証されていないということです。今季から三塁にコンバートされた今成亮太とのキャンプ、オープン戦からの激しい定位置争いが、切磋琢磨につながっているのです。開幕から絶好調のゴメス、マートンの両外国人ですが、彼らを助けていたのが良太であり、今成です。6番打者が安パイだと、相手投手もクリーンアップには四球でOKと、ストライクゾーンで勝負しなくなってしまいます。彼らの存在感が両助っ人の成績を支えていたのです。
これから始まる交流戦。パ・リーグには右の本格派投手が数多くそろっています。ここまでの阪神打線は変化球でかわしにかかる軟投派には強く、球威で勝負してくる右投手を苦手とする傾向がありました。勢いのあるストレートを見て打席で力んでしまっては、結果は明白です。各打者がいかに力みを消せるかが、パ投手攻略の鍵となります。
(数字は全て5月14日現在)