ところが、当のアルベルト監督がJ1のFC東京に引き抜かれ、代わって今季から指揮を執ったのが現監督の松橋力蔵氏(54)だった。
松橋監督は17年から横浜F・マリノスで4年間コーチを務め、19年にはJ1制覇も経験。21年にアルビレックスへ移籍してきた。
「アルベルト氏の下でコーチを経験していたこともあり、チームが目指すスタイルを継続していくには、うってつけの人材だったと言えます。一般的に前監督が成績不振で解任されると、後継者は一からチームを作らなければならず苦労する。しかし松橋監督の場合は、アルベルト氏によって築かれた土台があった。そのため、自身のエッセンスをすんなり加えることができたのだと思います」(安藤氏)
低迷期のアルビレックスは、監督選びで「負のスパイラル」に陥った経験を持つ。04年以来守ってきたJ1の座から落ちた17年は、当時の監督が10試合指揮を執っただけで成績不振のため辞任。元日本代表で知名度もあった呂比須ワグナー氏(53)が後を託された。
しかし思うような戦いはできず、チームワーストタイとなる6連敗を喫するなど、散々な成績で終わってしまった。
J2降格後も毎年のように監督が途中交代する異常事態が続き、呂比須氏招聘が失敗に終わった影響からか、内部での昇格人事の繰り返し。リーグ関係者や報道陣からは「内部昇格を繰り返すことで閉塞感が漂い、ダイナミックさを失っている感がある」と指摘されることもあった。
その悪い流れを完全に断ち切ったのが「外様」出身の松橋監督である。
「マリノスの下部組織を長く指揮してきた人で、若手育成には定評がありました。アルビレックスでもMFの秋山裕紀(21)、FWの小見洋太(20)といった若い選手を『ミスしてもいいから積極的に仕掛けろ』と言って起用し、成功しています」(安藤氏)
昨季の経験も生かされた。安藤氏によると、シーズン終盤に失速したのは、相手チームに対策を立てられた結果、思うように打開できず、勝ち切ることができなかったことが原因だったという。
「J1と違ってJ2では、守備を固めて確実に勝っていこうと考えるチームが多い。従って、アルビレックスのように自らボールを保持して主体的にゲームを進めるチームに対しては、次の対戦でしっかり対策を立ててくる。昨季はそこを突破できませんでした」(安藤氏)
低迷期と違って、課題は明らかだった。アルベルト監督の指導で守備はすでに安定している。残るは、いかにしてゴールを奪うか。サイド攻撃や中央からの崩しなど、攻撃のバリエーションを増やした。
さらに、そこに至るまでのパスの精度も高めた。練習でもボールが浮いたら選手同士で「浮いているぞ」と指摘し合うなど、技術の向上にこだわったという。
来季は6年ぶりにJ1の舞台に帰ってくる。
「今のスタイルならJ1でも十分に戦えると思います。また、地域密着が根づいて、サッカー熱の高い新潟でプレーしたいという選手も多いので、いい補強ができる可能性もあります」(安藤氏)
来春のJ1開幕まで約半年。ひと昔前は雪国のため「スポーツ不毛の地」とも揶揄された新潟のサポーターたちにとって、今冬の雪解けはいつにも増して楽しみになりそうだ。