日本サッカー界の3大タイトルの1つ「天皇杯」で、J2の「ヴァンフォーレ甲府」が史上最大の下剋上を完遂した。J1の4チームを次々と倒し、決勝戦でもJ1で3位のサンフレッチェ広島を撃破。00年に経営危機に陥り、21年度営業収益もJ1、J2計42チーム中32番目という小規模クラブが「おやじ3人衆」の活躍で奇跡を巻き起こしたのだ!
10月16日、第102回天皇杯の決勝戦が日産スタジアムで行われた。過去、準優勝5回のサンフレッチェ広島と、初めて大舞台に駆け上がったヴァンフォーレ甲府の戦いは、想像を超えるドラマチックな結末が待っていた。
スポーツ紙サッカー担当記者が興奮さめやらぬ口調で振り返る。
「広島はJ1(18チーム)で3位、対する甲府はJ2(22チーム)で18位(10月16日時点)。J2での優勝は11年シーズンにもありましたが、その時のFC東京は、すでにJ1昇格を決めていた。J218位での優勝はまさに下剋上です。甲府のサポーターは勝利を信じて『県民80万人の思いはひとつ天皇杯を甲斐の国山梨へ』という横断幕を掲げていましたが、まさか“ミスター甲府”と称され『オミさん』と慕われる42歳のDF山本英臣が、同じくベテランの守護神・河田晃兵(35)とムードメーカーのMF三平和司(34)を脇役に従えて、演出兼主役だなんて、誰も思ってもみなかったでしょう。まさに“オミさん劇場”でした」
歴史に残る世紀のジャイアントキリングは、前半26分、甲府のCK(コーナーキック)からの先制ゴールで動き始めた。
「甲府は力差のある広島に対し開き直って5バック、中盤4人と徹底した守備的布陣のため、当然、得点のチャンスはセットプレーになる。ショートコーナーからパスをつなぎ、最後にゴールを決めた三平が『練習でもあんなにうまくいかない。プランどおり』と自賛したように、事前に準備されたスペシャルプレーからの一撃でした」(スポーツ紙記者)
この試合で甲府のCKは前半の2本だけ。今年からアフロヘアに変身した三平が、ここ一番での集中力と底力を見せつけたわけだ。
一方、1点を追う広島も後半39分に同点ゴール。
「広島は過去5回の決勝で無得点のまま散ったプレッシャーからか、地元メディア関係者が『今季最低の前半』と振り返っていましたけど、後半からは立ち直りましたね」(スポーツ紙記者)
ただ、選手の交代枠を使い切っていた広島は、同点に追いついた勢いのまま一気に攻め落とすことができず、延長戦に投入する。
そして延長後半7分、甲府の吉田達磨監督(48)は「僕の信頼は絶大。どんな場面でも期待どおりのことをしてくれる」と、切り札の山本を送り込んだ。
しかしわずか3分後、広島のシュート場面で、立ちはだかる山本の腕にボールが当たり、PKに‥‥。
「ここで燃えたのが守護神の河田でした。『やりやがったな、という感じ。(山本さんが)ずっとこのクラブを支えてきている。タイトルを獲らせてあげたい。そういう気持ちがあった』と絶体絶命の場面を振り返っていました。PKを与えたのが山本だったからこそ、奮起したスーパーセーブとも映りましたね」(スポーツ紙記者)
筋書きのないドラマはさらに続き、PK戦に突入。事前に監督から5番目のキッカーに指名されていた山本に「奇跡の日本一」の命運が託されることになる。