甲府は今回の天皇杯優勝で、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)の切符を手に入れたが、80万人の山梨県民のサポーターが本拠地のJITリサイクルインクスタジアム(甲府市)で白熱のゲームを観戦することはできない。スポーツ紙デスクが解説する。
「ACL開催の基準を満たしていないのが理由です。観客席は、背もたれ30センチ以上の個別席を5000席以上設置していることが義務づけられている。今も昭和の面影が残るスタジアムは甲府と平塚ぐらい。すでにクラブの社長は『改修は現実的に難しい』と話していて、近隣のスタジアムでの開催になりそうです」
21年度のJ1、J2クラブ営業収益を見ていくと、トップは川崎フロンターレの69億8200万円で、60億円台が5チーム。天皇杯の優勝を争った広島が12位で34億6000万円、甲府はその約3分の1の12億9200万円で32位だ。
「甲府の運営規模が15億、20億円と増えていけば、J1復帰と定着にも近づくと思います。Jリーグの現役社長の1人は『J1定着には、チーム人件費に17億円は必要』と話していました」(元川氏)
地方の小規模クラブにとって営業利益は常に切実な問題だが、それは選手も同じようで、
「天皇杯の勝利ボーナスや来季の年俸など、気になっていると思いますよ。ただ、早くも『ACLの経験を積みたい』と、若手の中心選手から残留宣言も出ています。サッカー界は移籍によってクラブに恩返しするシステムですからね。ACLの大舞台で活躍すれば、海外からのオファーも夢ではないでしょう」(スポーツ紙デスク)
例えば元日本代表の内田篤人(34)は、シャルケ04時代に「契約を更新したのは、移籍金をお世話になったクラブに残すため」という旨の発言を残している。
「甲府であれば、15年に在籍していた日本代表の伊東純也(29)。Jリーグ1年目の年俸上限は480万円で通常は3年契約です。その伊東が翌年、柏レイソルに完全移籍した。これで伊東の年俸は約3倍程度にアップし、同時に甲府は移籍金として少なくとも5000万円を得たとも。また19年2月、伊東はドイツのKRCヘンクにレンタル移籍し、20年6月に完全移籍しましたが、柏への移籍料とは別に、2つ前の所属先である甲府にも移籍金の一部が入ります」(スポーツ紙デスク)
甲府には、かつて中田英寿(45)を獲得したことで知られる敏腕スカウトがいて、その貢献度は絶大だった。
今回の快進撃にしても、「彼が誘った将来性豊かな98年生まれの若き5人衆が支えました。決勝戦ではおやじ軍団の大逆襲が目立ちましたけど、山本は『若手に(優勝を)獲らせてもらった』とコメント。『甲府は家族。これで全部返せたとは思えないくらい恩がある』とも話していて、次なるミラクルが楽しみです」(スポーツ紙記者)
来年はJ2の身でACLに挑戦。小さなクラブのレジェンドにとっても、21年目の戦いが始まる。