僕は帰ってきました──14万人のユタカコールが鳴り響いた5度目のダービー制覇から1年がたった。今年はトーセンスターダムとのコンビで連覇に臨むわけだが、前走の皐月賞では11着に惨敗。その時、武豊騎手は何を思ったのか。20年来の“心友”で作家の島田明宏氏が、ダービーの勝ち方を最も知り尽くす天才の胸中を聞き出した──。
今週末、武豊は実に25度目の参戦となる日本ダービーに臨む。
「この世界で生まれ育ったせいか、子供の頃からダービーだけは違うように感じていました。今でも特別な緊張感、ワクワク感がありますね」
史上最多の5勝をあげてもその感覚は変わらない。
「もちろんです。何回勝っても独特の重みを感じますし、『今年もダービージョッキーになりたいな』と毎年思います」
昨年の第80回日本ダービーを、05年にみずからの手綱でダービーを勝たせたディープインパクト産駒のキズナで優勝。1人の騎手による、史上初の父仔制覇だった。
「親にも乗ったことがあると、いろいろ考えて乗ることができるのは確かです。ディープ産駒では、いつも気にしながら乗っていることがあります。それが本当に合っているかどうかは馬に聞いてみないとわかりませんけどね」
とほほえむ彼は、「キズナによるダービー制覇はキャリアの中でも大きな勝利だった」と話していた。それが良質な騎乗依頼の呼び水となり、昨年は年間97勝をマーク。まだまだ本来の数字ではないが、デビュー以来最低に終わった一昨年の56勝からV字回復を果たした。
「ダービーが終わると、2歳戦がスタートするでしょう。翌年のダービーを勝ちたいと思っているオーナーや調教師が、ダービーで結果を出したジョッキーに依頼する、という部分は多少あるように思います」
彼は日本ダービーで昨年まで24戦5勝2着3回3着2回。勝率は2割ほどと、これでも好成績なのだが、初勝利をあげた98年以降だと15戦5勝2着2回3着1回という驚異的な数字になる。3回に1回は勝っているのだから、武を起用することが、ダービーを勝つ確率を上げることになる、と言えるのではないか。
「今年僕が乗るトーセンスターダムもそうだったようです。当初は外国人騎手を起用する予定だったらしいんですけど、ダービーに向かうことを考えて、3カ月しか乗れない外国人騎手ではなく、僕を指名したと聞いています」
トーセンスターダムもキズナ同様、ディープ産駒である。
◆聞き手・島田明宏(作家)
◆アサヒ芸能5/27発売(6/5号)より