武が初めてトーセンスターダムにまたがったのは、昨年秋の新馬戦に向けた最終追い切りだった。
「急きょ騎乗依頼があったんですけど、セレクトセールで2億5000万円の値がついて話題になった馬ですから、プロフィールは知っていました」
乗り味はどうだったのか。
「素質はありそうだな、素材としてはいいな、と思いました。そんなに仕上がっていなかったんですけど、こんな感じでデビューしてどれくらい走れるのかな、と楽しみになりました」
デビュー戦は10月20日、京都芝1800メートルの新馬戦だった。8頭立てのこのレースで、武・スターダムは4番手につけ、3コーナー手前で2番手にポジションを上げ、直線で2着馬を競り落とし、勝った。
「超スローペースで2番手に収まったあたり、センスがあるな、と。ラストの走りもよかったので、これはいいな、と思いました」
どんなテーマを持って初戦を迎えたのか。
「まず、どういう馬なのかを僕がつかまなくてはならない。そのうえで馬にいろいろ経験させていくんだけど、一戦一戦ムダにはできない。負けると、クラシックの出走権が離れていくから結果も求められる。そうしたことをクリアして、最終戦がダービーという感覚です。もちろんそのあともレースは続くんですけど、ダービーでひと区切りつきますよね」
トーセンスターダムを管理するのは、武と保育園時代からの幼なじみの池江泰寿だ。小さい頃からの友人の管理馬で臨める喜びは大きく、勝ちたいという気持ちは強いのではないか。
「そうですね。子供の頃から僕は騎手を、彼は調教師を目指して、2人ともなることができた。その彼の馬で、もし勝つことができたら、不思議というか、それこそ夢のような感じでしょうね」
2人はこの馬に関してどんなやり取りをしているのだろうか。
「当初から、クラシックに乗せていかなくてはいけない馬だよね、という話はしていました。新馬戦の頃は、まだ仕上がり切っていなかったのですが、今はこのぐらいのほうがむしろいいのかな、と。普通より成長が遅いかもしれない、と言っていました。だから使い込まなかったんです」
◆聞き手・島田明宏(作家)
◆アサヒ芸能5/27発売(6/5号)より