第1波から第7波まで無策ロードをひた走る自公政権と厚労省が、国内初の新型コロナ治療薬として、塩野義製薬のゾコーバ(一般名:エンシトレルビル)を緊急承認した。今年7月の時点では臨床試験(治験)結果で症状の改善が確認できず、継続審議になってわずか4カ月、第8波を目前にしてのドタバタ承認劇だ。
治験患者数が少なく、かつ症状軽快の評価が「後付け」、さらに治験期間が短いことから医師の間で不興を買っているゾコーバ。医薬品のトリセツにあたる「添付文書」を読むと、いったい誰に処方するのかわからないシロモノなのである。
まず市販の総合感冒薬や解熱鎮痛剤、ドリンク剤、発熱時の栄養補給剤に含まれる「無水カフェイン」とは一緒に内服できない。わずか数カ月の治験で、無水カフェインとゾコーバを一緒に飲んだ被験者の、血管攣縮発作の副作用が報告されているからだ。睡眠薬のハルシオンとの併用も禁止。睡眠中の呼吸抑制が起こるという。
他の睡眠薬、血液サラサラにする薬、高血圧患者に使われる降圧剤、アレルギーなどにも処方されるステロイド、うつ症状に用いられるセイヨウオトギリソウのサプリを飲んでいる人も、ゾコーバは使えない。薬に依存しきっている日本だからこそ、使いづらい。欧米で市販される総合感冒薬の成分とも相性が悪いから、世界市場で売れるのかも疑問だ。
都内で処方箋薬局を経営する薬剤師が、憤懣やるかたない様子でまくしたてる。
「厚労省は新型コロナをまるでわかっていない。まず熱や咽頭痛、倦怠感の症状が出て、総合感冒薬や解熱鎮痛剤を飲んで寝て、喉の痛みやだるさで辛い中、朝から電話をかけまくって発熱外来の予約をと──。そうした一連の流れを理解していないのです。ジェネリック医薬品大手の日医工が経営破綻するなど、日本国内はクスリ不足が続いている。ドラッグストアやコンビニで無水カフェインを含まない総合感冒薬、解熱鎮痛剤、ドリンク剤を探すのは困難です。これだけ併用禁止の薬剤があると、発熱外来を担当する医師、処方箋薬局の薬剤師が持病や内服薬の確認作業に手間取り、診療業務は第7波以上に煩雑になる。わざわざ現場がいちばん嫌がる時期に緊急承認するとは…」
なぜ医療従事者がここまでゾコーバを嫌がるかといえば、「地雷患者」に当たることが確実だからだ。
例えば、高血圧の薬や血液サラサラの薬を飲んでいる独居老人の多くは、自分がどんな薬を飲んでいるか、まるでわかっていない。睡眠薬や向精神薬、精神症状に効くサプリなどを服用している「自称健常者」も、自分から精神薬を飲んでいることを認めない。精神科医から発熱外来を紹介されてきた患者には、内服薬の確認作業中にマスクなしで飛沫を飛ばされながらキレられた経験が、看護師でもある自分にもある。
自分が何の薬を飲んでいるかわからない人にも、ラムネ菓子のように薬を乱発する医師がいる。そんな医師に限って、コロナ患者は診ない。発熱外来や保健所といったコロナ治療現場がただでさえモヤモヤしているところに、ゾコーバの登場で内服薬の確認作業が増え、同時にキレる患者も増えるのだろう。もはや現場は絶望しかない。
もしゾコーバを処方された際は、どうか医師や薬剤師の質問にイラつかず、内服薬確認の協力をお願いしたい。
(那須優子/医療ジャーナリスト)