本格的な冬の到来を前に、本当に恐ろしいのは新型コロナとインフルエンザの同時流行よりも、市中から解熱鎮痛剤が消える「日医工パニック」かもしれない。
解熱鎮痛剤「ロキソニン」のジェネリック薬ロキソプロフェンや、水疱瘡・帯状疱疹の治療薬「アシクロビル」を製造するジェネリック医薬品大手「日医工」(富山県滑川市)は11月14日、創業者一族である田村友一社長の退任と、来年3月から4月をメドに上場廃止すると発表した。
日医工は昨年3月、国の承認を受けていないズサンな製造方法が発覚し、監督権限を持つ富山県から業務停止命令を受けた。他の日本国内のジェネリック医薬品製薬企業の法令違反も明るみに出て、生産中止が相次いでいるのだ。
日本国内のジェネリック製薬会社のたび重なる不祥事を受けて、厚労省が昨年10月時点で行った調査によると、処方薬4800品目の供給量が14~20%減少。特にジェネリックの大手である日医工が製造販売していた医薬品は「クリニックにも処方箋薬局にも在庫がなく、他社製品も入ってこない状態」(都内開業医)だという。
新型コロナとインフルエンザに限らず、全ての医薬品が消えるかもしれないのだ。
昨冬の新型コロナ第7波、今夏の第8波では解熱鎮痛剤「カロナール(アセトアミノフェン)」「ロキソニン(ロキソプロフェン)」が不足した。鎮痛剤としてこれらの薬を飲んでいる人には思い出したくもない悪夢で、どこの薬局の解熱鎮痛剤の棚も空になり、ネット通販でも、届くのに10日かかったほどだ。
ファンドによる日医工の経営再建の方針は決まったが、ジェネリック医薬品の製造ラインが正常化するのは、23年9月以降になるという。つまり今冬も、解熱鎮痛剤や関連医薬品の不足は続くのだ。
新型コロナはインフルエンザより大したことがなかった、と言う人もいるが、そのインフルエンザも、今年は流行するのではないかと警戒されている。今夏はRSウイルスや手足口病など、他の感染症も流行した。
突然、高熱が出た時に慌てないために、解熱鎮痛剤の他に、今のうちに常備しておくべきものをリストアップした。
(1)体温計/パルスオキシメーター
(2)新型コロナ検査キット(厚労省サイトに公表されているメーカー推奨)
(3)氷枕
(4)経口補水液と飲むゼリー、アイスクリーム
(5)子供がいる家庭は、座薬の解熱鎮痛剤
(6)消毒用アルコール
(7)ぜんそく薬やアレルギー薬(医師や薬剤師に相談を)
(8)総合感冒薬、漢方薬
(9)整腸剤
医療機関で薬を処方してもらえるにこしたことはないが、前術の通り「病院、クリニックにも薬が入ってこない状態」である。
健康保険料をたくさん支払っている現役世代は、健康保険料に見合った満足な治療を受けられる保証がない。発熱外来も、断られるのが関の山だ。病院で点滴治療を受ける代わりに、点滴と同じ成分の経口補水液、解熱鎮痛剤やのどの炎症、痛みに効く成分が全て入っている市販の総合感冒薬を準備しておいた方がいい。総合感冒薬がない場合は葛根湯など、風邪に効く漢方を。
解熱鎮痛剤がなく、のどが痛くて食べ物が飲み込めない時に、のどごしがよくて、体を中から冷やすためのゼリーやアイスクリームは年末年始、多めにストックを。
子供に処方されるカロナールの品薄状態が続いているので、解熱剤の座薬をかかりつけ医に処方してもらうと、お守り代わりになる。子供は大人より脱水を引き起こしやすいため、子供用の経口補水液やジュースも、非常食を兼ねて大目に準備しておこう。子供関連の医薬品や商品、消毒用アルコールはいつ買い占めなどによる品不足が起きるか、予想がつかないからだ。
製薬企業が解熱鎮痛剤の増産体制に回れば、今ですら供給不足の他の処方薬も品薄になる。持病がある人は例年より早いペース、早いサイクルで、かかりつけ医を受診することをお勧めしたい。
(那須優子/医療ジャーナリスト)