いよいよプロ野球「現役ドラフト」の開催が12月9日に迫ってきた。「出場機会に恵まれない選手の移籍を活性化させる」というテーマのもと、NPB(日本野球機構)と選手会が協議に協議を重ね、ようやくこぎつけた肝煎りの新制度である。
しかし、その内容を完全に把握している人は意外と少ないのではないか。初の試みとはいえ、そこまで盛り上がっていない背景には、制度の難解さがある。そこで今回、誰にでも理解できるよう、「現役ドラフト」の仕組みを完全解説。記事を読み終わる頃には、アナタもいっぱしの球界通だ。
まず、ドラフト対象となるのはどの選手なのか、ということ。これは開催1週間前の12月2日時点で球団との来季契約を保留している選手だ。その中から、各球団は最低2人をリストに載せることが義務付けられている。
ただし、そこには除外対象となる条件もいくつか存在する。列挙すると、FA権を取得する選手、FA権を行使したことがある選手、複数年契約選手、年俸5000万円以上の選手、来季が入団2年目の選手、外国人選手、育成選手、シーズン終了後以降にトレードされた選手、シーズン終了後に育成から支配下登録となった選手である。
実はこの条件にも例外があり、年俸が5000万円以上1億円未満の選手は各球団が1名に限り、リストに加えることができる。
指名対象者が載ったリストは、全球団で共有。各球団がリストから1名以上の選手を指名することになる。
「ドラフト会議前日までに、以上の作業が行われます。それぞれの球団がどの選手を、あるいは何人の選手を指名したのかは、当日までわかりません。そして自軍の選手に獲得希望がどれだけ集まるかで、会議での指名順が変わってくるんです」(球界関係者)
ここが最もややこしい。毎年のドラフト会議のように、指名が重複したらくじ引きで、というシステムではないのだ。
現役ドラフト指名の場合、獲得希望票数が最も多かった球団が、指名順1番目となる。そしてその選択により、次回以降の順番も変わる。ここで、会議を簡単にシミュレーションしてみよう。
巨人が2人の選手をリストに載せ、12球団最多となる7票の獲得希望票を集めたとする。ここで最初に選択できる権利が発生し、巨人はヤクルトの選手を指名した。すると、次に選手を指名できるのはヤクルトになるのだ。以降は順番に、選手を指名された球団に、次の選択権利が発生していく。
そしてヤクルトがソフトバンク、ソフトバンクが阪神、そして阪神がまた巨人というふうに、すでに選手を指名している球団が選択された場合、残った球団の中で、最多の獲得希望票を集めた球団が、選択権利を得る。仮にオリックスが最多の4票を集めていた場合、そこからまた選手を指名された球団へと、選択肢が移るのだ。オリックスが阪神の選手を選択したならば、次は3票獲得のロッテ、といった具合である。
オリックスと広島が4票で並んだ、という場合は、ウェーバー制で昨シーズンの順位が下だった広島が、先に選択権利を得る。また、残った球団の獲得票がともにゼロだった場合は、逆ウェーバーに。オリックスと広島のケースでは、オリックスが先に選択できることになる。
全球団の指名が終了すれば、第2巡に突入。第1巡で最後に指名した球団から、選手を指名することができる。この流れを、全球団が指名を終了するまで続けるのだ。
「出場機会に恵まれない選手の救済」というお題目は素晴らしいが、いくつか問題点もはらんでいる。NPB関係者が解説する。
「選手にリスト入りを知らせるかどうかは、各球団の裁量に委ねられています。ただし、リストの選手は故障歴などのメディカル情報を開示することが義務化され、このメディカル情報は本人の同意がないと開示できない。そのため、ほとんどの球団で現役ドラフトの対象となる選手は『リストに載せるかもしれないから、メディカル情報開示に同意してくれ』という扱いを受けることになる。リスト入りを伝えることが不可避となる状況が生じることになり、選手にしても、球団に必要されていない、と疑心暗鬼になっても仕方ない」
また、リストに載り、他球団から指名された選手は、移籍を拒否した上で所属球団への残留を認められなければ、任意引退で退団、ということになる。事実上、移籍を強制されるテイだ。NPB関係者が続けて、
「巨人なんかは、あえてリスト除外となる育成選手への登録変更を露骨に行っており、ルールの穴を突くことも容易にできる。対象となるのは、球団でほぼ戦力外とみなされた選手になることは間違いないでしょう」
その中でも目玉となり得る選手を出せば、指名順上位になることができる、という駆け引きも考えられるが、初年度はどこも様子見で腰が引けることになるのではないか。
通常ドラフトと違い、会議の様子は完全非公開で、結果だけがのちにアナウンスされる、という不透明性も問題視されている。
まずは初年度、実施してみて問題点を洗い出し、来年度以降、ブラッシュアップしていくほかないのかもしれない。