テリー ロシアのウクライナ侵攻についてはどうお考えですか。加藤さんはロシアにもウクライナにも友人がたくさんいるじゃないですか。
加藤 私自身は身内感覚ですから、ひと言では答えるのは難しいですね。だから本を書いたって言ってもいいかな。
テリー 両方に友人がいるっていうのは辛いですね。
加藤 「百万本のバラ」を歌ったアーラ・プガチョワも友人のひとりです。彼女は旧ソ連時代からの大スターですけど、今回の戦争が始まってすぐに戦争に反対して、ロシアを出ちゃった。で、彼女のパートナー(マクシム・ガルキン)はテレビの人気キャスターで、先頭を切って戦争に反対した人なんだけど、彼はロシア政府から「外国の代理人」(編注:ここではスパイの意)と認定されました。彼女はそれに対してプーチンに「私も彼と同じ考えなので同じに扱って下さい」って挑戦状を叩きつけたんだけど。
テリー へぇ。
加藤 だから私の周りで言えば、ウクライナの人はもちろん、ロシアの人もみんな戦争には反対です。
テリー 今、そういう人と連絡を取ったりすることはあるんですか。
加藤 いえ。私はどっちかと言えば日本にいるロシア人やウクライナ人に友人が多いから。直接電話で現地の人と「どうなの?」って話すようなことはないですね。
テリー そうか。僕ね、まったくウクライナの知識がないんですけど、どんなところなんですか。
加藤 ウクライナはいい土がある豊かな国です。文化の原点でもあって、音楽家や作家もウクライナからたくさん出てるんですね。チャイコフスキー、ストラヴィンスキー、ドストエフスキー、「スキー」のつく人は、みんなウクライナ系ですよ。
テリー 知的レベルが高いんですね。
加藤 高い。ロシアの中の先進国だから。で、今、ロシア料理と思われてるものもウクライナ料理が多いです。父が京都に出したキエフもね、ロシア料理店だったんだけど、だんだんウクライナ人のコックさんを雇うようになってきたら、「マスター、これはロシア料理じゃない。ウクライナ料理店と言わなきゃ」ってすごく言われてたんですよね。父は「かまへん、かまへん。ロシアは1つなんや」ってあんまり取り合わなかったんですけど。
テリー 確かにロシア料理ってよく聞きますけど、ウクライナ料理って知らないですね。
加藤 ボルシチなんかはウクライナ料理ですよね。うちの店はコサックの人がシェフだったんだけど、その人が「ロシア人の家庭料理はウクライナ料理だ」って。で、ロシアが料理で開いた分野があるとすれば、「ジビエ料理」なんですって。なぜかと言うと、貴族が猟を楽しんだ後に作った宮廷料理が元だから。
テリー へぇ。だから、料理ひとつ取ってもロシアとウクライナは切っても切れない関係というか。
加藤 この戦争を私がひと言では説明できないと言ったのは、私自身がある意味で大陸に残された亡命日本人だったからですよね。国籍を持たない時間が1年ぐらい私たちにはありましたから。
テリー ハルビンから引き揚げてくる時ですよね。当時の過酷な状況が、この本にも詳しく書いてあります。
加藤 だから、国がない状態に放り出される人たちが、今もこの地球上にはたくさんいて、みんなで守っていかなきゃいけない。そういう思いは、この本を書くきっかけのひとつになりましたね。