投げては打者をのけぞらせる剛速球、打っては投手をうつむかせるほどの快音を放つ。日本ハム・大谷翔平(19)の「二刀流」は成功しているかに見える。ところが、球界からは限界説もささやかれ始めている。
6月25日、対DeNA戦に先発した大谷は、4試合連続で球速160キロを記録。7回を4安打2失点に抑え、みごとにチームに勝利をもたらした。
これで、大谷の投手としての成績は7勝1敗、防御率2.61、いずれもチームトップ。パ・リーグ全体を見渡しても、トップ5までに入る数字である。
一方、打者としては規定打席に達していないものの、打率2割7分1厘、本塁打2本。打率はチームトップである(投打ともに成績は6月27日時点)。
まさに、非の打ちどころがなく、数字上は「二刀流」はうまくいっている。
しかし、元阪神でエースとして活躍した野球解説者の江本孟紀氏はこう話す。
「投打ともに20年に1人現れるかどうかという逸材であることは間違いありません。投手、野手のどちらでも大成するでしょう。ただし、『どちらかで』であって、両方の大成を目指すことは、どちらも中途半端に終わる可能性がある」
プロ入り2年目にして、ファンは十分に夢を見せてもらった。ぼちぼち「二刀流」を諦め、投打のどちらかに専念すべきだというのだ。前出・江本氏が続ける。
「大谷はわずかに投手としての能力のほうが勝っている。打者としての数字が好調と言うが、相手投手は“お客さん”扱いをしており、内角を厳しく攻められるような場面はない。打者専念となれば、研究されて調子を崩していくでしょう。その点、投手としての能力は安定している。7勝目をあげた試合ではイマイチだったが、ふだんは非常にキレイなフォームで投げられていて、しっかり投手として調整して、打者との駆け引きを覚えれば、現状でも通用しているのだから、年間25勝はいけるはずです」
大谷はオールスターのファン投票でも先発投手部門で3位。スポーツ紙では背番号「11」を受け継いだダルビッシュと比較する論調も多い。やはり、投手専任への期待のほうが高まっている。
ところが、日本ハムOBで野球解説者の角盈男氏は正反対の持論を展開する。
「非常に高いレベルでの選択ということになります。つまり、200勝投手となるのか、それとも毎年三冠王を射程圏内に収める打者になるのかということです。そこで、私が注目しているのが、大谷のミートのうまさです。選球眼、体の使い方、そのどれもが天性の能力の持ち主です。ウエートトレーニングを積み、体を大きくしてパワーを身につければ、王さんの868本の本塁打記録、張本さんの3085本の安打記録を抜くのも夢ではない。そのためには1年でも早く打者専任にしたほうがいい」
現在、投げてよし、打ってよしの大谷見たさに球場に大勢の人々が押しかけている。その集客力という点においても、打者のほうが有利だというのだ。
「打者は毎試合に出場するわけですから、当然、お客さんも集まります。記録を残し、ファンも魅了するという点で、大谷は打者としてスーパースターを目指すべきです」(前出・角氏)
日本球界の伝説的記録を塗り替える大谷の姿は、ファイターズファンならずとも、ぜひ見たいはずだ。
球界の伝説的な記録といえば、金田正一氏(80)の400勝もある。今のままでは大谷が投手として、この記録を破る可能性はきわめて低い。
「中3日で登板すれば、多少の可能性はありますが、現在の日本球界で、そんなローテションはありえない話です」(前出・江本氏)
日本には「二兎追う者は一兎をも得ず」という格言もある。やはり、「二刀流」の夢は捨て去って、打者として‥‥。いや、大谷はメジャー志向、こちらの夢も諦めてもらわないと、日本記録樹立とはならない。
この夢を断念させることは「二刀流」以上に難しそうなのだ。