ただ、これまでも野球評論家の間から「ワインドアップにすれば、もっと球速は増すかもしれない」という意見は出ていたが、実際に170キロの追求は危険をはらんでいる。プロの選手は162キロの球でもバットには当てる。その球でファウルさせてカウントを稼ぐことはできるが、ウイニングショットで制球が崩れては話にならない。メジャー通の球界OBが、こんな話をしていたことがある。
「メジャー(レッズ)にチャップマンというキューバ出身の快速左腕がいて168キロを記録しているが、ヤンキースの(かつての)リベラのような絶対的なストッパーになっているかといえば、そうではない。ストライクゾーンをかすめる直球は打たれるし、制球力がない。スピードよりも、リベラのカットボールや上原浩治のフォークのように必殺技を持っている投手のほうが結果を出す。その意味で、170キロを目指すことは無意味かもしれない」
大谷も、それをわかっているフシがある。投手としての今季の課題に「コントロール」と答えているのだ。
「スピードよりもボールの質とコントロールが重要だと理解している。しかも今キャンプからは、昨年までの縦ではなく横に大きく曲がる新スライダーに取り組んでいます。握りを変えただけですが、鋭い切れ味で周囲を驚かせました。スピードと球威を追いかければ必然、制球が乱れる。20勝を目標に掲げるのならば、170キロ計画はみずから頓挫させたほうがいいのかもしれません」(スポーツライター)
しかも大谷には、口には出さないが、打者として20発という目標がある。キャンプ2日目に48スイングで11発の柵越え。逆方向にもフェンスオーバーを連発し、辛口の栗山監督が現時点での大谷に関しては「打者のほうが投手より少しいい。体と動きのイメージが一致して前へ進んでいる」と成長を認めている。栗山構想では、登板後「中0日」での野手起用を計画中。昨年は登板の前後2日が休養日だったことを考えれば、
「打席数が必然的に(昨年の登板数の)24試合分、約100打席ほど増える計算になり、昨季10本だった本塁打数が増えることは間違いないでしょう」(スポーツ紙デスク)
だが実は、大谷の二刀流が進化すればするほど「障害」が生まれる。すなわち、投手としての進化が打者の足を引っ張る、もしくは、打者としての進化が投手の足を引っ張ることになる、という自己矛盾だ。テレビ番組で江川卓氏が、次のように警鐘を鳴らしていた。
「投手に必要な、肩から背中にかけての斜めの筋肉がまだついていない。ただ、この筋肉がついてくると、打撃には悪影響を与える。バランスが狂ってしまう」
その逆の声もある。
「打者として飛ばすなら、筋力アップが必要。ところが筋量が増えると、投手としての障害も増える。体つきが変わると、そのたびにフォームを微調整しなければならないからだ」(球界OB)