これは「第2のSTAP細胞事件」なのか──。
三菱ケミカルグループは2月14日、Muse細胞を用いた再生医療等製品「CL2020」の開発を中止すると発表。開発に関わった子会社の「生命科学インスティチュート」の今後についても「組織再編の必要性を含め、詳細は検討中」としたのだ。
Muse細胞はへその緒や骨髄などに存在し、様々な細胞に分化することができる万能幹細胞。患者本来の細胞のため「ガン化」するおそれがなく、静脈内に注入するだけで、病気や外傷で損傷した組織を修復する働きがあるとされる。2010年に東北大学の出澤真理教授らのグループにより発見されて以降、人工的に万能細胞を作り出すiPS細胞と並んで、日本が生んだ「万能細胞」として注目されてきた。
相手は生きた細胞なので、シャーレの中で増やすことはできても、人類が期待するような研究成果が得られないことは、幹細胞研究では珍しいことではない。ところが今回はMuse細胞を発見した出澤教授が、三菱ケミカルグループが開発中止会見を開いた日、都内の別の会場で「三菱ケミカルグループ側が提示した治験データに疑義が生じている。Muse細胞の権利の返還と合わせて、治験データの精査を求める」と怒りの記者会見を開いたのだ。日本を代表する三菱グループで何が起きているのか。大学病院教授が説明する。
「出澤教授が不信感をあらわにしているのは、治験を行なった病院の治験データと三菱の治験データに、著しい開きがあったからです。治験の場を提供した病院と医師は、中立的な立場で新薬の治験データを検証します。当たり前ですが、病院と企業が共有する治験データは、同一でないとおかしい。ところが両者を比較すると、三菱ケミカル側の治験データだけが成績がよく、データが捏造された疑いが出てきたのです」
三菱グループといえば、理化学研究所で行われた研究不正「STAP細胞」と、それによって母校の早稲田大学から博士号を取り消された小保方晴子氏をゴリ押ししていた安倍晋三元総理の兄が三菱商事の執行役員を務めるなど、安倍家、岸家に近しい旧財閥。安倍氏の母校である成蹊学園は三菱創業者・岩崎弥太郎氏の甥が創設に尽力した私学であり、小保方氏の家族も三菱グループの幹部を担っていた。前出の教授が憤る。
「三菱ケミカルがMuse細胞研究に着手したのは15年、STAP細胞の不正が明るみになった翌年です。当時、安倍内閣が『成長戦略の目玉』『アベノミクス第4の矢』として掲げたのが、万能細胞を用いた再生医療と東京五輪でした。東京五輪はご存じの通り、今なお逮捕者を出している。再生医療についても、STAP細胞のインチキがバレるとMuse細胞、それも思ったような成果が出ないと、iPS細胞の権利を譲渡するよう京都大学の山中伸弥教授に迫った。アベノミクスで投じた税金を回収するために、安倍政権はなりふり構わぬ暴挙に出たのです。安倍氏が亡くなった後に、三菱ケミカルのデータ捏造疑惑と事業中止が急浮上したのも、おかしなタイミングです。このままでは、日系企業は国際的信用を失いかねない。岸田文雄総理は国民に増税を課す前に、アベノミクスの検証をすべきでしょう」
科学技術国家・日本の将来に影を落とす疑惑について、引き続き取材を続けていく。
(那須優子/医療ジャーナリスト)