ニューヨークタイムスの電子版が「今年行くべき世界の旅行先」の2位に選んだ盛岡市。ではなぜ、盛岡市なのか。その魅力の1つは「麺」かもしれない。
盛岡市はJRが音頭を取って30年近く前から観光客向けに「3大麺」をアピールしてきた。それは「わんこそば」「冷麺」、そして「じゃじゃ麺」である。
花巻市にもわんこそばがあり、どこが発祥の地であるのかは定かではないが、盛岡市にもあって、積極的に観光客を呼び込んでいる。お客様にお腹いっぱい食べてもらいたい理由でわんこそばができたらしい。
「盛岡冷麺」というのは比較的最近誕生したネーミングである。発祥は盛岡市の中心部にある老舗焼肉店「食道園」であり、現在の北朝鮮の日本海側の化学工業都市・威興(ハムン)から来た青木輝人さんという方が、生まれ育った威興の冷麺を出していたのが始まりである。
一般的な冷麺はそば粉を練りこんだ黒っぽい麺だが、この冷麺は片栗粉を使っているので透明に近く、かみ切れないほどの弾力がある。黄金色に輝くテールスープが麺とマッチしている。
辛いキムチが上に乗り、季節によって梨やスイカが添えられる。岩手県民は自分の贔屓の冷麺屋があり、「ぴょんぴょん舎」や「盛楼閣」などが人気だ。
じゃあじゃあ麺はご存じの方も多いと思うが、では「じゃじゃ麺」は!? これは盛岡独特の麺である。戦後に満州から引き揚げてきた店主が満州で食べていた麺を、盛岡市民の口に合うように改良して人気を呼んだ。それが盛岡城址から2、3分のところにある「白龍」(パイロン)である。小さな飲食店が並んでいる一角にあり、県庁も中心部の大通りの商店街も近いし、巨石を真っ二つに割って生えている有名な石割桜がある裁判所からも遠くない。ちなみにこの石割桜は、4月中旬の満開時には薄緑の華麗な花を楽しむことができる。
じゃじゃ麺はハマる者はハマる麺であり、毎日のように通うファンも少なくない。太さはうどんくらいで、柔らかい。これに肉みそやキュウリやネギ、しょうが乗っていて、ぐちゃぐちゃ混ぜて食べる。麺を食べ終わったら生卵とスープを皿に乗せてもらい、それを混ぜて飲むのが「チータンタン」と呼ばれ、こちらも人気がある。20年近く前に東京・世田谷区内の246号線と環状7号線が交わった上馬辺りにじゃじゃ麺のお店があって驚いた記憶がある。
白龍から中津川方向に行けば、3分ほどで橋の先に明治時代に作られたレンガ造りの建物がある。ポスターなどに使われている岩手銀行レンガ館であり、今では見学ができるようになっている。
こうして盛岡のことをあれこれ書いていくと、町が非常にコンパクトであることを改めて感じる。そして、何より盛岡人は朴訥な人柄で人情が深いと言われる。NYタイムスが勧めるまでもなく、やはり今年行くべき街なのかもしれない。