アフリカ発「サル痘」の感染が、欧米や中東などの地域を中心に、拡大の一途を辿っている。
そんな中、5月20日、厚生労働省は都道府県、保健所設置市、特別区(東京23区)の衛生主管部(局)に対し「サル痘に関する情報提供及び協力依頼について」と題する事務連絡を発出した。そして6月1日に出された一部改正版も含め、健康局結核感染症課による事務連絡には、次のような驚くべき「警告」が明記されていたのである。
「理論的には空気感染も起こす可能性が指摘されている──」
サル痘の感染経路についてはこれまで、動物からの感染(接触感染)とヒトからの感染(接触感染や飛沫感染)が主なルートと考えられてきた。ところが件の事務連絡は、衝撃的な「空気感染」のリスクとともに、次のような注意喚起まで行っているのだ。
「サル痘患者が使用したリネン類(寝具やタオルなど)の取り扱いには注意すること」
「(サル痘患者の入院などを引き受けた)医療機関内では空気予防策を実施すること」
折しも6月10日から、コロナ禍で中止されていた外国人旅行客の団体ツアーでの受け入れが、岸田文雄総理の肝煎りで再開された。だが、公衆衛生学の専門家は、
「事実上、サル痘に対する水際対策は『穴だらけ』と言っても過言ではありません」
と指摘した上で、次のように強く警鐘を鳴らすのだ。
「サル痘の潜伏期間は5~21日、通常で7~14日と言われています。明確な症状がある場合は入国時のチェックも可能でしょうが、例えば、潜伏期間に入国してしまったツアー客については、全く打つ手がありません。しかも、発症初期の症状は軽微であることも少なくなく、外国人ツアー客自身もサル痘に感染していることに気付かぬまま、旅行先で感染を拡大させてしまう危険性がある。この場合、やはり空気感染は最大の感染要因、脅威になりますが、感染者が使用した枕やシーツなどのリネン類を交換する際、旅館やホテルなどの客室担当者が感染してしまうケースも大いにあり得るのです」
日本国内におけるサル痘の流行は、秒読みの段階を迎えている。
(森省歩)
ジャーナリスト、ノンフィクション作家。1961年、北海道生まれ。慶應義塾大学文学部卒。出版社勤務後、1992年に独立。月刊誌や週刊誌を中心に政治、経済、社会など幅広いテーマで記事を発表しているが、2012年の大腸ガン手術後は、医療記事も精力的に手がけている。著書は「田中角栄に消えた闇ガネ」(講談社)、「鳩山由紀夫と鳩山家四代」(中公新書ラクレ)、「ドキュメント自殺」(KKベストセラーズ)など。