国道42号線といっても、ピンとくる人は稀であろう。静岡県浜松市から海岸線に沿って西に向かい、伊勢市から紀伊半島をぐるりと回って和歌山市までが、国が直轄管理している道路である。本州最南端の串本町、そしてクジラ漁の歴史がある大地町を通り、田辺市を経ると、南高梅で有名な、みなべ町や御坊市を通る。それを過ぎ、由良町あたりから道の脇に置かれた木の棚に、ビニール袋に入れられたミカンが無造作に置かれているのが目に入り出す。これがこの時期だけに現れる、みかんの無人販売所だ。
販売所によって異なるが、ビニール袋に15個ほど入って、料金はなんと驚きの100円である。脇に置かれた料金箱にチャリンと100円玉を入れるだけだ。地元住民はこれが好きでよく買っているが、それにはコツがあるという。
「毎回、同じ販売所で買うことにしてるんやけど、売り切れの場合もありますよね。その時は別の販売署で買うんやけど、100円で買って、その場でビニール袋を破って、まず1個を食べてみる。濃くて甘かったら正解ということで、2袋も3袋も買うことにしているんです」
傷があったりして捨ててしまうのはもったいないということで、ミカン農家が始めた無人販売だが、実はビニール袋に入れたり、販売所に運ぶのに手間がかかるということで、販売をやめてしまったケースもある。国道からズレて山の方の細い道路沿いには、農家の軒先で無人販売をしている風景など、いくらでも見られるのだ。
ところがミカン産地として有名な有田市に入ると、無人販売所の料金は200円になるから笑ってしまう。
「有田ブランドということで200円になっているんだろうけど、100円の地域で買っていればいいことや。味は変わらんから、確かめて買えば失敗はない」
前出の地元住民は、そうアドバイスするのだ。
有田市内を流れる有田川はアユ釣りでも有名だが、川の両側の急峻な山々にはびっしりとみかんが植えられている。よくもあんな傾斜の転げ落ちそうなところを開墾したものだと、感動する景色が広がっている。
「ミカンにはいろいろな品種があって、時期を変えて夏から冬まで採れるんです。昭和30年代は、ミカン産地といえば和歌山。中でも有田は有名で、みかん成金が大勢いたものです。そんな客を目当てに、スナックもたくさんあったんですよ。今は愛媛や熊本などのミカン産地が増えてしまって、昔の栄華はありませんが、JA主催で毎年、アメリカや欧州へ旅行に行っています。無人販売もやったけど、今はお金を入れない客がいるんで、やめてしまいました。わずか100円、200円もケチるほどの世の中になったのは切ないことです」(みかん農家関係者)
これから国道42号線を通る人はぜひとも、無人販売のミカンを味わってほしいものだ。