国立がん研究センター研究所(東京都中央区)を中心とする研究チームは、「アルコールを分解しにくい体質の人が飲酒をすると「びまん型胃がん」の発症リスクが高まる」との、注目すべき国際共同研究結果を公表した。
研究は世界各国の胃がん患者1457人(日本人の胃がん患者697人を含む)を対象に行われ、研究対象患者の遺伝子情報(ゲノム)などを解析した結果、アルコールを分解しにくい体質の人、いわゆる「酒に弱い人」が飲酒をした場合に起きる遺伝子変異が、びまん型胃がんの発症リスクを高める遺伝子変異を誘発することを突き止めたのだ。
病理組織学上、胃がんは「腸型」と「びまん型」に大別される。このうち、腸型胃がんについては治療法の進歩などで予後は改善されてきたが、スキルス性胃がんに代表されるびまん型胃がんについては、有効な治療法がいまだ確立されていない予後不良(難治性)胃がんとされ、その発症要因についても未解明の状況が続いてきた。
びまん型胃がんと飲酒との関係についてはこれまでも指摘されてきたが、その因果関係がゲノム解析などによって明らかにされたのは世界初のこと。ただし、長年、胃がんをはじめとする消化器がんの治療と研究に携わってきた消化器内科の専門医は、
「今回の研究に協力した胃がん患者の数が、世界最大規模だったことも考え併せれば、まさに画期的な成果と言っていいでしょう」
こう賛辞を送りながらも、次のように指摘するのだ。
「今回の研究では、アルコールを分解しにくい体質の人には、SBS16と呼ばれる遺伝子に変異が見られることがわかりました。この遺伝子変異を持つ人は、日本人をはじめとする東アジア人に多く、日本人の場合、びまん型胃がんは胃がんの約3割を占めています。腸型胃がんはピロリ菌を除去する薬を服用することで予防が可能ですが、びまん型胃がんについては『飲酒をやめる』以外に予防法はないのが現状です。それだけに、酒の弱い人にとっては、いささか衝撃的な研究結果だったと言えるのではないでしょうか」
もっとも、量や期間も含めて、「どれくらい飲酒すれば、どれくらい発症リスクが高まるのか」については、まだよくわかっていない。また、保険は適用されないが、本人が希望すれば、医療機関などでSBS16の変異の有無を確認することはできる。
いずれにせよ、酒が弱い人は用心が必要、ということだ。