日本最大級のテーマパークであるTDL(東京ディズニーランド)といえば、子供はもちろん、大人も楽しめる遊園地。だが「TDLは夢の国」かというと、実はそうでもないらしい。少なくとも「職場としてのTDL」は、夢の国とはほど遠いようだ。なぜなら、夢を打ち砕かれた従業員の訴えによる裁判が、今も続いているからである。
「事件」が起きたのは、2013年2月7日11時頃のことだった。TDL内でぬいぐるみに入るキャストだった女性契約社員・Xさんが、25歳ぐらいの男性客に右手の指を反対に折り曲げられ、捻挫してしまったのだ。保安係がこの男を追跡し、確保しようとしたが、逃亡を許してしまう。いまだに捕まっていないのだ。
「Xさんは2009年4月からTDLのキャストとなり、1年契約で更新してきたといいます。当時の時給は1630円でした」(社会部記者)
Xさんはこの事件により怪我を負ったため、労災の申請をしようとした。ところが、上司であるSV(スーパーバイザー)から「お前の心が弱いから(そんな申請を)求めるんだ」と「嫌味を言われた」という。
「この発言は、のちに行われた裁判でも認定されています」(前出・社会部記者)
結果的に労災申請は出されたものの、この一件でXさんと60人ほどいる他のキャストの間に、大きな溝ができてしまう。孤立したXさんは悩み、うつ状態になってしまった。医師からは療養するようにと勧められたが「次回の契約のことを考えると、休むことはできなかった」(Xさん)という。
2016年1月5日にキャストたちの懇親会に出席したXさんは、最上層のUM(ユニットマネージャー)に対し、自分が抱えている悩みを打ち明けた。だが、ここでも「お前も金をもらっているんだから、ちょっとは我慢しろよ。我慢できないなら、とっとと辞めろ」と暴言を吐かれてしまったのである。
「こうしてXさんは、2018年にTDLの運営会社である『オリエンタルランド』を相手取って、千葉地裁に提訴したのです」(前出・社会部記者)
判決は昨年3月29日に下された。オリエンタルランドが職場環境を調整する義務に違反したとして、Xさんに88万円の支払いを命じたのだ。ただ、オリエンタルランドは控訴し、現在も高裁で審議されている。
判決では、上司の心ない発言が「パワハラとまでは言えない」とされたが、「夢の国」から発せられた言葉とはとても思えないのもまた、事実なのである。