これでは被害者が浮かばれない。
殺人事件の被害者の司法解剖や死亡診断書で、トンデモない誤診が横行しているのをご存知だろうか。
今年3月、青森県八戸市の「みちのく記念病院」精神科病棟に入院していた70代の患者が変死した事件では、病院側が「死因は肺炎」とする死亡診断書を遺族に渡していたと、地元紙「東奥日報」が4月13日付で報道した。ところが司法解剖の結果、この患者の死因は暴行による頭部や顔面の損傷と判明しており、死亡診断書と司法解剖結果の乖離が指摘されている。
司法解剖がまともに行われていただけ救いがあるが、殺人事件の被害者の死因を「肺炎」とした例は枚挙にいとまがない。
例えば2021年6月に川崎市で起きたベトナム人殺害事件では、神奈川県警が被害者の死因を「司法解剖の結果、出血性ショックによる肺炎」と発表。司法解剖を担当した大学病院は、致命傷となった刺し傷が肺にまで達しており、肺に血液が溜まった「肺炎」と結論付けたのだ。
こうした刺し傷が原因で亡くなった場合「出血性ショック死」や「大量出血による循環不全」と結論づけるのが通例である。「刺された傷が原因で、肺に炎症が起きたから病死」扱いされては、死者も遺族もたまったものではない。
4月11日に北海道北見市で60代の女性が死亡しているのが見つかった事件では、女性の頭や胸など上半身に、複数の打撲の痕が認められた。殺人容疑で逮捕された内縁の夫が「口論になり、カッとなって思い切り頭を殴りました」と容疑を認めているにもかかわらず、司法解剖の結果は「病死」。容疑者が殺人を認めているのに、無罪放免になる可能性が出てきたのだ。
なぜ司法解剖で、こんな「あり得ない誤診」が相次ぐのか。日本国内の不審死案件は15万件なのに対し、司法解剖を担当する常勤法医解剖医師はわずか165人(令和3年、厚労省調べ)。法医解剖医師が県内に1人しかいない県は、広島県など19県にのぼる。広島県では不審死のうち、司法解剖される症例はわずか1%にすぎない。法医解剖医の代わりに医師資格を持つ大学院生が司法解剖することが常態化しているため、警察本部も頭を抱えるトンデモ誤診が横行しているのだ。
このためAi(オートプシー・イメージング=死亡時画像診断)、CTやMRI等の画像診断装置を用いて遺体の内部を調べる、司法解剖に代わる制度が求められているのだが、不審死の画像診断に反対しているのが、満足に司法解剖もできない法医解剖医たち、というカオス状態に陥っている。
先端技術を導入した司法制度改革は、待ったなし。いっそ司法解剖も裁判官もAi(死亡時画像診断)とAI(人工知能)にとって代わった方が、被害者と遺族が報われる血の通った判決が望めるのではないか。
(那須優子/医療ジャーナリスト)