「こいつバカでしょ笑」
実業家の堀江貴文氏が批判の矛先を向けたのは、4人の子供を全員、東京大学に入学させたカリスマ教育ママだった。そのきっかけとなったのが「ChatGPT」は教育の敵か、味方か」を取り上げたNewsPicks(オンライン経済メディア)の討論番組である。
「ChatGPT」とは、2015年に世界的起業家イーロン・マスク氏らの出資で設立された、アメリカの人工知能研究所OpenAIが作り出した「対話型人工知能」だ。マイクロソフト社は今年1月に、100億ドルを出資。昨年12月には、検索エンジンに対話型人工知能を組み込んだ、新しい検索システムサービスの提供を始めている。
スマホやパソコンに話しかければ、今夜の晩御飯からアメリカの弁護士試験まで、スラスラと答えてくれる。「ドラえもん」ののび太や「転生したらスライムだった件」のスライムになった気分だ。
ちなみにアメリカの弁護士試験の模試を最新の「GPT-4」に解かせたところ、上位10%に入る好成績を叩き出した。日本の司法試験はインターネット上に情報公開されていないため、人工知能が解くだけの情報を集められない。つまり人工知能の能力を発揮するには、インターネット上の情報量がカギとなるのだ。
「ChatGPT」がネット利用者のプライバシーを侵害すると言われるのはこのためで、ネット上の情報が間違っていれば、人工知能の答えも間違いとなる。人工知能は過信できない。
討論番組に話を戻せば、大学教授ら教育の専門家が「ChatGPTを味方にせざるをえない」と肯定的にとらえたのに対し、先のカリスマ教育ママは徹底的に敵視。「12歳までは完全隔離してほしい。触っちゃいけない。今まで通りアナログで育てて、タブレットなんて全部捨ててほしい」と言及したのだ。
これをバッサリ切り捨てたのが、冒頭のホリエモンの言なのである。
ネット上のコメント欄を俯瞰する限り、乱暴な口調を諌めつつも、ホリエモンを支持する意見が多い印象だ。ノーベル賞受賞者を出したある企業の役員に私見を聞いてみたところ、
「東京大学は4月3日、人工知能について『人類はこの数カ月でもうすでに、ルビコン川を渡ってしまったのかもしれない』などと否定的な見解を出しましたが、日本の立ち位置を全くわかってない。人工知能を毛嫌いしていたら、完全に日本の科学技術、教育水準は世界から取り残されます。人工知能が導き出した結果が正しいのかを検証するのが、大学教員の仕事でしょう。好き嫌いや良し悪しではなく、これからは人工知能で導いた答えを叩き台にせざるを得ない世の中に変わってしまう」
筆者は2020年以降、新型コロナで健康不安を抱える独居老人を多く見てきた。相談したくても相談窓口の電話は繋がりにくく、やっと繋がったと思えば、看護師や保健所職員はマニュアル通りの返答しかしない。患者にとっても看護師にとっても、無力感に苛まれた3年間だった。
使えない健康管理アプリを作ったり、相談窓口の予算を人材派遣会社がピンハネするより、その税金で人工知能が独居老人の急変を判断して119番通報、あるいはオレオレ詐欺を撃退するシステムを作る方が我々にとって有益なのは、言うまでもない。
「ChatGPTは教育の敵か、味方か」論争も、有名塾任せの教育ママやホリエモンに意見伺いするより、「ChatGPT本人」に解を求める日が、近いうちにやってくるだろう。
(那須優子/医療ジャーナリスト)