“正論”を標榜する産経新聞と“クオリティペーパー”を自任する朝日新聞の対立は50年以上前に遡る。その間、靖国神社問題や歴史教科書問題などで火花を散らしてきたが、朝日を擁護する韓国が意趣返しとばかりに、産経新聞のソウル支局長を、ソウル中央地検に出頭させる“緊急事態”にまで発展した。日韓関係に深く波及した遺恨の裏側とは──。
8月12日に、韓国のソウル中央地検に出頭した産経新聞の加藤達也ソウル支局長。きっかけは、8月3日に産経新聞のウェブサイトに掲載されたコラムだった。
産経新聞幹部が憤る。
「問題となったのは『追跡~ソウル発 朴槿惠(パク・クネ)大統領が旅客船沈没当日、行方不明に‥‥誰と会っていた?』という支局長の原稿でした。朴政権を支持する保守系の市民団体から大統領の名誉を毀損したという告発を受け、地検への出頭命令が下った。民主国家とは思えない所業です」
しかも、コラムの中身は2週間ほど前に韓国最大の部数を持つ保守系紙「朝鮮日報」が掲載したコラムの引用が中心。ところが、当の朝鮮日報は口頭注意にとどまっているほか、出頭命令のタイミングが、朝日新聞が8月5日と6日に掲載した「慰安婦問題を考える」という特集企画で、82年に慰安婦問題を初めて証言した故・吉田清治氏の発言を偽証と認め、慰安婦と女子挺身隊を混同したことも明らかにしたやさきだけに、「慰安婦問題のよりどころである朝日に対する意趣返しでは?」との声が上がっているのだ。
産経政治部記者がその内情を明かす。
「そもそもソウル支局長の書いた記事は、セウォル号の沈没事故当日に朴槿惠大統領が7時間行方不明になったことに疑問を呈しただけのこと。それを支局長を出国禁止にまでする意図はまったく理解できない。もともと韓国と産経新聞の間には隙間風が吹いていて、青瓦台の行事にも他のメディアが招待される中、産経だけが呼ばれないというケースも‥‥。“盟友”の朝日のピンチに、いよいよ伝家の宝刀を抜いたというのが正直なところでしょう」
実際、産経と朝日のバトルは慰安婦問題のみならずエスカレートするばかり。直近では、福島原発事故における東京電力福島原発・吉田昌郎所長の内部調書「通称・吉田調書」の内容を産経が独自にスクープ。これまで「所長の命令に違反して撤退した」とする朝日の報道に対し、産経は「朝日は事実をねじ曲げて日本人をおとしめたいのか」と真っ向から反論している。
かつて、60年代に北朝鮮が「地上の楽園か否か」という評価を巡って対立して以来、両紙のスタンスは交わらないどころか、その溝は深まるばかりなのだ。
そして、今や慰安婦問題を巡って孤立無援の朝日新聞を擁護するのは、もっぱら韓国の新聞ばかり。今回の慰安婦に関する検証報道についても、
「朝日は日本の保守勢力が唱える(慰安婦問題に関する)責任否定論に警告した」(中央日報)と評価する一方、吉田証言の取り消しについては、「『慰安婦の強制動員はなかった』という考えを持つ安倍政権への直撃弾でもある」(朝鮮日報)と真逆の反応を示すのだ。
中でも、朝鮮日報は朝日に対して、共同戦線すら呼びかける始末。
「朝日はいくつかの誤報を公にして訂正したうえで『慰安婦の強制動員はなかった』という日本社会で主流を成す主張を再度批判した。だが、日本社会では『朝日が間違いを認めた』と攻撃が相次いでおり、日本政府までこれに加勢している。(中略)旧日本軍の従軍慰安婦を巡る朝日新聞の闘いは20年以上になる。加害者の国の新聞が常に被害者側に立って闘ってきたのだから、孤立し疲れが見えてきた。これを知恵をもって助ける方法が韓国政府にあるはずだ」
この論調こそが、産経のソウル支局長の出頭命令と軌を一にするのだ。「朝日・韓国連合」と産経新聞のバトルはいよいよ待ったなしの状況を迎えつつある。