軍事ジャーナリスト・潮匡人氏もクーデターと金第1書記暗殺の可能性について、こう指摘する。
「金正日の棺を担いでいた8人のうち、金正恩以外の幹部7人は全て粛清、失脚、処刑されています。また軍人の階級も上下を繰り返していますが、これは軍の常識からいって考えられないこと。とても北朝鮮の内部組織がうまく機能しているとは思えません」
結局、抗日記念式典には北朝鮮から代理人が出席することとなった。8月21日、北朝鮮は突如「南北高官会談」を提案する。これは物資欲しさに「仕掛けて引く」北朝鮮の瀬戸際外交なのか。
「00年の南北首脳会談では韓国政府から北朝鮮に約5億ドルが裏金として出されました。この会談は1日遅れたのですが、裏金の到着が1日遅れたことが原因です。しかし、今回は裏金のやり取りはありません」(ジャーナリスト・近藤大介氏)
では、北朝鮮が「停戦」を持ちかけた理由は何か──それは8月17~28日に行われる予定の「米韓軍事演習」にあったという。
これまで北朝鮮は、米韓演習への対抗策として軍事演習を行っていた。しかし現在は軍事費と燃料が枯渇して演習が行えないのだ。
「北朝鮮は軍事演習と称して、いきなり米韓が攻撃してくる可能性を警戒しています。実際に94年に米軍は軍事演習と見せかけて、北朝鮮に空爆をしようとした過去があったからです。会談中は実際の戦争にはならず、それしか防御策がなかったのです」(前出・近藤氏)
22日から行われた会談は、4日間で計43時間という長時間会談となる。
「北朝鮮は、軍事演習の最終日である28日まで会談を長引かせたかった。だから、韓国の指名に応じて、北朝鮮のNO2・黄炳瑞(ファンビョンソ)軍総政治局長さえも出してきたのです。韓国も権限のある軍人を連れて来て謝罪をさせたい要望があった。そうしないと、軍に対して示しがつかず朴政権はもたないからです」(前出・近藤氏)
会談中も潜水艦を移動させるなど圧力をかけて韓国を挑発したのも、会談を長引かせるための北朝鮮の作戦だ。最終的に、北朝鮮側が地雷事件に「遺憾」の意を表明し、韓国も宣伝放送をやめるなど6項目について合意した「南北共同報道文」が25日に両国から発表されることとなった。
全てみずからの思惑どおりに運んだことに満足したのか、28日には金第1書記が、
「北南関係を和解と信頼の道に戻した重大な転換的契機になった」
と発表。こうして、戦争勃発は両国の思惑もあって、直前で回避された。
だが安心できないのは、秋に新たな「緊張」が生まれるおそれがあるからだ。それは「核」と「弾道ミサイル」がポイントになると、前出の潮氏が指摘する。
「10月10日に朝鮮労働党創設70周年のパレードが行われます。北朝鮮は06、09、12年とほぼ3年周期で弾道ミサイルの発射と核実験を行っていて、今年はその年になります。周期がこのようになっている理由は2つ。1つは新型のテストの必要性で、もう1つは旧型を使い切りたいという思惑です。ミサイルを撃てば、国連安保理決議違反でイージス艦などが展開して、緊張状態となるでしょう」
さらに、来年3月には、北朝鮮が最も警戒する演習が行われる予定だ。
「軍事演習は7~8月の夏と3月の毎年2回行われ、より大きい演習は3月に行われています」(前出・近藤氏)
今回の危機を通じて明らかになったのは追い詰められ、あらゆる手段を使う北朝鮮の現実。第2次朝鮮戦争勃発のリスクは高まる一方なのだ。