さて、成功率の高さのもう一つの要因はだまし取る金額にもあった。
「上限が100万円で、下は10万円程度。とにかく相手が怪しまず、わざわざ銀行に引き出しに行かなくても済む金額にするの。地方の場合、自宅近くに銀行がないことも多いから、相手が高齢なら、自宅に100万円くらい用意してるのはけっこういるよ」(佐藤氏)
金額は掛け子が電話での感触からアドリブで提示をする。もっとも、彼らの報酬はだまし取った金額に応じた歩合制なので、言葉は悪いが“腕しだい”となるのだ。
ちなみに掛け子、受け子、見張りはローテーション体制が組まれるが、会話が巧みなゆえに「掛け子専任」もいるという。
7人1組の派遣チームは横並びで複数活動していて、“出張”ごとにメンバーが入れ代わる。まれに過去に同じチームで動いた人間と一緒になることもあるが、会話はほとんどないそうだ。
「互いに素性なんか知られたくないからね。会話のなまりで素性の一端がバレちゃうこともあるでしょう。実行犯の年齢はパッと見で10~40代。基本的に皆アルバイト感覚だよ」(佐藤氏)
10代の実行犯までいたとはあきれるばかりだが、この“高級バイト”は午前9時にスタートし、午後5時には終了する。まるで公務員のようだが、対象者宅の家人が最も少ない時間を狙っているためだ。
掛け子3人は、前述のような名簿50人分1冊が合計4冊の200人分を渡され、電話をかけ続ける。所轄署の見張り役などは用意された車で外出。外出組は全員スーツ着用だ。行動時に怪しまれないためである。
実際、彼らにはマニュアルもあり、そこには清潔感を保つことや敬語を使って話すことなどの注意点が記載され、実際に実行犯たちは最初に敬語を覚えるなど“仕事熱心”だという。
「皆、捕まりたくないから、ヒゲは毎日剃るし、髪も整えてるよ。髪を染めたり、指輪なんかをしてる人間はいないね」(佐藤氏)
所轄署の見張り役は、位置を変えながら警察の動向をうかがっている。
一方、掛け子は対象者がだまされて現金の用意に同意した段階で、外出組に連絡。それ以降はこの案件が終了するまで掛け子全員が電話を一時ストップする。
以降、所轄署見張り役は警察の動きを注視、残る2人のうち1人が対象者宅前に急行し、周辺で不審な動きがないかを確認。警察、対象者宅周辺のいずれでも不審な動きがなければ、対象者の息子の代理で来た部下、同僚を名乗る受け子が訪問し、現金を受け取るのだ。現金はただちにホテルに届けられ、撤収時まで監視役が保管する。ちなみに対象者宅の見張り役は、現金を持った受け子の持ち逃げ防止の監視役も担っているという。この受け子が最も逮捕されやすい役目である。かくいう佐藤氏もローテーションで受け子を担当したことがある。
「逮捕のリスクが高いことを考えると、正直むちゃくちゃ怖いよ。しかも、だまされる対象者はほとんどが高齢の女性だからね。自分の親くらいの人もいる。お金を渡してくる時は、自分の息子のことをすごく心配していて‥‥。正直、掛け子は慣れればいいけど、何度やっても受け子は慣れないな」
各地での滞在期間は最長1週間だが、1週間滞在したとしても、名簿200人全員に電話をかけきることはまずない。少しでも警察などに不審な動きがあれば即撤収するからだ。
とりわけ注意を払うのが、掛け子が相手をだませたと思って受け子を派遣する際である。掛け子の電話成功後に所轄署から警察車両が動いた時には、それが対象者宅方向に向かうか否かに関係なく、受け取りを中止し、ビジネスホテルも即座に全員で引き払うという。携帯電話の電波から拠点位置を特定される可能性もあるからだ。