広域組織二次団体幹部は、「噂は聞いている」と前置きし、次のように語る。
「よくよく考えると、おかしい点がいくつもある。まず第一に“義理”で先に振り込んでください、なんていう話はありえない。現金を包んでいくか、招待されても出席できないので花代だけでも振り込みましょうかと、こっちから申し出るならわかるがね」
一般社会の振り込め詐欺と同様に、その多くが「未遂」に終わっているようだが、被害は拡大の一途だという。
「いちばん高額な花を10万円に設定しているパターンもあったと聞く。あとはイベントにかこつけて振り込ませる手口もあって、どこそこの親分が主催している格闘技の大会に遊びに来ませんか? 新幹線代とかはこちらで持ちますんで‥‥とか言いながら、イベントの協賛金を振り込ませる。この協賛金にもランクがあって、花代のように、やはりいちばん高いのを選ぶケースが多い。ヤクザは見栄で生きているから、被害額も大きくなりがちだ」(二次団体幹部)
新幹線はいつもグリーン車。ホテルは最上級のスイートを取り、レストランに行けばいちばん上等のコースを頼む。ヤクザの心理を巧みに利用した狡猾な犯罪と言えよう。
裏社会に詳しい「ぼったくりの帝王」こと、作家の影野臣直氏が言う。
「歌舞伎町のポーカー屋でもよくありましたよ。下っ端のヤクザが来ると、最も高いレートで設定をインチキしてカモにするんです。でもヤクザだから、イカサマだとわかっても文句は言えない。警察にも駆け込めず、泣き寝入りするしかないんです」
また、「ヤクザライフ」(双葉社)などの著書があるフリーライターの上野友行氏によれば、こうした寸借詐欺は昔からあったようで、
「携帯電話がそれほど普及していなかった時、当番の人間が電話に出て、『俺だ』の声で相手が誰だかわからなければこっぴどく怒られたもの。そんな時代ですから、『例の金、振り込んでおいてくれ』と言われて、詐欺師の口座に送金してしまったなんて話はいくらでもあったと思いますよ」
それにしても、ヤクザから金をダマし取るとは大胆不敵と言うしかない。