この一連の作業は店舗を変えて片っ端から実行される。周辺店舗を総なめにしたら、今度は再度住民票を移転したり、保険証そのものを紛失したことにして新たに保険証と住民票を再取得して名前と生年月日も再偽造、また銀行口座を開設し、同じことを繰り返す。周辺店舗を本人が総なめしたあとには本人が行かず、数万円の報酬を餌に別の人間を雇って契約するのだ。周囲でこれをやって逮捕された人間はいないという。
「最盛期では月100万~200万円は手にしましたね。もっともキャバクラやパチンコで使い果たし、今は手元にほとんど残っていないですけど」(本山氏)
ちなみに、本山氏が上層部から聞いた話によると、主に振り込め詐欺に使われるのはウィルコム端末だという。
「契約後は一銭も支払わないわけですが、この場合、携帯電話3社は1カ月で使用停止となります。ところがウィルコムは自分がやっていた当時、3カ月間は完全無料で使用できたんです。寿命が長いうえにウィルコムの端末はGPS機能がないので、追跡されにくいということもあったらしい」
すでに佐藤氏、本山氏ともにこれらの仕事から足を洗い、現在はカタギの生活に戻っている。
「マニュアルどおりにやれば、自分でもできるかもしれないし、その経験で『独立』してるヤツもいるかもしれないけど、自分はもうやる気はないね」(佐藤氏)
本山氏もこう漏らした。
「もう今では契約時の対応も厳しくなっていますし、リスクほどのメリットはないですよ。自分がやっていた時の上も本職のヤクザではなく、いわゆるグレーの人だった。そもそも今ヤクザになる連中のほうが少ないですよ。なっても、得が一つもないので‥‥」
若者の手軽なバイト感覚の裏で、「振り込め詐欺」の闇は深いようだ。