ところで、携帯電話は毎回、上層部から20台以上が支給され、それを交互に利用する。不審がられないよう、あえて番号通知設定のままだ。このため、ごくまれに通話時に不審がられた対象者から、電話を切ったあとにコールバックされることも。その際は電話は受けず、その携帯の電源を落として使用を禁止する。
「携帯電話はガラケー、スマホ、PHSとか、いろいろある。ただ、どこでどう手に入れてきたかはわかんないけどね」(佐藤氏)
実は、こうした犯罪に利用する、足のつかない携帯電話の不正入手を専門とするグループも実在するのだ。過去にそうしたグループに在籍したことがある関東在住の20代男性・本山順氏(仮名)が淡々と語る。
「もともと携帯の不正入手をやってる知り合いがいて、サクっと『こういう仕事があるけどやる?』って誘われて始めました」
ガッシリとした体型のガテン系男子風の本山氏もやはり動機は金だ。
本山氏の手元には、当時使用したという手書き文書をコピーしたマニュアルがあった。
携帯電話の契約に身分証明書が必要なのは当たり前だが、マニュアルにはまず「偽造身分証明書」の作成方法が記載されている。対象となるのは写真がいらない国民健康保険証だ。
まず、偽造は空き家、空き部屋探しから始まり、それが見つかったら、実際には引っ越さずに自分の住民票を移転させ、その住所の住民票と保険証を入手。これをもとに氏名や生年月日の漢字や数字を簡単に細工すれば偽造ができ、それで銀行口座を開設する。偽造した保険証、住民票、銀行通帳の3点がそろえば、それらを持参して携帯電話会社の窓口に赴くのだ。
「いちばん最初はソフトバンク。ここで一個人での契約上限の3台を契約するんです。これが電話番号を取得する『タネ携帯』と呼ばれるもので、それをもとに今度はauショップで3台全てをauに乗り換える。その後はau携帯のうち2台をドコモに変更し、さらにそのドコモの2台を最後再びau2台へ乗り換えるんです。契約時は、商品価値が高いものを選択し、auならiPhone、ドコモならアンドロイドの最新機種で契約します」(本山氏)
この結果、最終的に「タネ携帯」を除く7台が手元に残る。これを闇社会とつきあいのある上層部が契約情報を除いて「白ロム」化したうえで“裏ルート”に売却するという。何度もキャリアを乗り換えるのは多くの端末を手に入れるのと同時に、乗り換えに伴う「キャッシュバック」を手にするため。これと並行してウィルコムでも1人当たりの最大契約数3台の端末を取得するという。
住民票移転から最終となる2度目のauへの乗り換え、ウィルコムの端末取得までにかかる時間は3日ほどだ。
「だいたい各機種は1台5万円くらいで売却できるため、ウィルコムの3台も含め合計50万円。これに携帯電話会社乗り換えに伴うキャッシュバックが最盛期は1台当たり約5万円で、7台合計で35万円。合計85万円が上層部の収入になります。自分の報酬はそのうち20万円。でも、たった3日での稼ぎですよ」(本山氏)
もちろん、最初の段階ではローンで各機種を入手しているため元手はタダで、あとから架空の人物に対し、住んでいない住所に請求が行こうが痛手はないというわけだ。