ジャーナリストの村上和巳氏もこう話す。
「これまではロシアの退役軍人を中心に他国に派遣してきましたが、ウクライナ侵攻は事情が明らかに異なります。大動員をかけるために、ロシアの刑務所の受刑者に『半年間の従軍で犯歴を消す』『月に報酬20万ルーブル(約36万円)』などと甘い言葉をかけて志願させ、たった2週間の訓練期間で戦地へ送り出すこともあったようです」
ロシアがウクライナで取っている戦法のひとつに「突撃分遣隊」がある。これは敵が潜んでいそうな場所に、あえて歩兵を向かわせるというものだ。
「ワグネルの兵士たちは粗末な武器だけ持たされて敵陣に突っ込まされて多くの戦死者を出した。ロシア軍は狙い撃ちされるワグネル兵士を見てウクライナ軍の配置を知ることができる。まさに文字どおりの“鉄砲玉”です」(黒井氏)
脱走兵が続出しても不思議ではなさそうだが、
「ワグネルでは、兵士が逃げないように生きたまま皮を剥がれる脱走兵の動画を見せることもあるそうです。また情報の漏洩にも厳しく、部隊長が、携帯電話の使用禁止のルールを破った兵士の指を切り落としたというエピソードも伝わっています」(外信部記者)
浮かび上がってきたのは、敵にも味方にも容赦ない非情な実態だった。
「残虐行為が最も報告されたのが昨年11月、ウクライナが南部の要衝ヘルソンを奪還した頃でしょうか。ただし、すでにシリア内戦に派遣されていたワグネルの兵士がシリア軍の脱走兵を拷問して殺害するもので、その頭部を切断して弄ぶような動画がSNSで拡散されていました。確かに、ワグネルの残虐性は異常ですが、同時にロシアの正規軍、ドネツクおよびルガンスクの親ロシア派武装勢力についても多くの残虐行為が報告されています。ブチャでの虐殺の爪痕を見ても、ロシア側の規律がいかに欠如しているか、わかると思います」(村上氏)
斬首の蛮行も辞さない残虐集団には一刻も早くウクライナから撤退してほしいところだが‥‥。
「ウクライナに大規模な反転攻勢のための力が備わってきているのは事実。西側から与えられた200両以上の戦車などで機甲部隊を編成し、4万人とも言われる新兵の訓練も最終段階まできている。実際の戦いは互いに陽動作戦を駆使して相手の裏をかき合うように行われるでしょう。その場合、いかにして敵軍の配置や動きを探るかが重要になるので、米軍の偵察衛星や通信傍受などで情報が入るウクライナ側に有利な展開となるでしょう」(黒井氏)
今後も一進一退の攻防が続きそうだが、ワグネルの“戦争犯罪”が裁かれる日はいつ来るのか。