アメリカFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長が、ロシアがウクライナのゼレンスキー大統領を装って仕立てた「偽ゼレンスキー」とのビデオ通話に応じ、偽物であることを見破れないまま会話を続けていた事実が明るみに出た。
FRBはアメリカの中央銀行制度の最高意思決定機関。そのトップをダマしたのは「いたずら動画」で知られるロシア人の2人組で、「FRBのパウエル議長への悪ふざけ」と題した約16分の動画は、ロシアの動画配信サイト「Rutube」で公開されたほか、ロシアの国営テレビも面白おかしくこれを取り上げた。
FRBはパウエル議長が偽ゼレンスキーとの会話に応じたことを認めた上で「会話は友好的なもので、ウクライナを支援する文脈で行われた。機密情報については話していない」と説明。
しかし、ロシア国内のみならず、世界中に公開された動画には、アメリカのインフレ状況やFRBの金融政策、アメリカの景気減速の可能性などについて、パウエル議長が真剣な表情で語り続ける様子が、バッチリと映し出されていたのだ。
実はこのロシア人の2人組には、ECB(欧州中央銀行)のラガルド総裁を同様の手口でまんまとダマした過去があるほか、国連のグテーレス事務総長を装って、ポーランドのドゥダ大統領をビデオ通話に引きずり出したこともあるのだ。
ロシアのメディア事情とプーチン大統領の手練手管に詳しい国際政治アナリストが、一刀両断する。
「戦時下におけるフェイクニュースは諜報戦にほかならず、ロシアの国営メディアが今回の一件を報じている以上、一連の出来事を笑い話として片づけてしまうのは危険です。ウクライナへの侵攻開始直後の昨年3月にも、ロシアは偽ゼレンスキーをSNS上に登場させ、前線で戦っているウクライナの兵士らに対して、ロシアに降伏するよう呼びかけさせている。パウエル議長らをダマした2人組の活動も、プーチンのお墨つきを得たものであることは確実で、情報管理と危機管理が甘かったと言わざるをえません」
偽ゼレンスキーには、偽プーチンで対抗を。そのくらいの気構えが必要ということだ。