プロ野球界には「疑惑のホームラン」なるものが何本も存在する。往年のファンには、1978年の日本シリーズ「ヤクルト×阪急」戦での、大杉勝男のポール際の一発が記憶に残っているかもしれない。阪急の上田利治監督が1時間19分にわたって猛抗議した、球史に残る事件だ。
同じように「疑惑の一発」を語ったのは、ギャオス内藤尚行氏である。野球解説者・岡崎郁氏のYouTubeチャンネル〈アスリートアカデミア【岡崎郁公式チャンネル】〉に出演した内藤氏は、自身が開幕戦のマウンドに上がった、1990年4月7日のヤクルト×巨人戦を回想した。
3-1とヤクルト2点リードで迎えた8回裏、一死二塁。打席には巨人の篠塚利夫が立った。内藤氏が投じた初球のスライダーを、体勢を崩しながらも右翼ポール際に運ぶと、ホームランの判定で同点に。
ところがファウルだとの確信があった内藤氏は両膝をマウンドにつけながら、憮然とした表情だ。当然ながら、野村克也監督が猛抗議を展開する。ところが現在のようにビデオ判定(リクエスト)などない時代ゆえ、判定は覆らない。試合は延長14回裏、一死満塁のチャンスで巨人・山倉和博が四球を選んでの、押し出しサヨナラ勝ちとなったのである。
だが、現在の内藤氏の顔には悔しさなど微塵もうかがえない。
「1勝を損したとか言われるんですけど、いやいや、あれは視聴率20%をゆうに超えている。次の日の新聞を見たら『疑惑』(の見出し)って…。あれが開幕戦だったっていうのがありがたいんですよ。だって、開幕戦であんな事件が起きるんですよ。『あれじゃあ、ギャオスが可哀想だ』みたいな…」
どこまでもプラス思考で、まんざらでもない様子すら見せるのだ。
ちなみに当時、テレビ中継で解説を担当していた長嶋茂雄氏の見解はというと、
「ポールを巻き込むね、微妙な角度で入っていったんじゃないかと思いますけど。もちろん私どものブースではね、わかりません」
その後、当時ヤクルトの一員だったミスターの長男・長嶋一茂氏が、父親に「ホンネ」を確認。内藤氏はその「答え」を明かした。
「あれ、ファウルだったね」
(所ひで/ユーチューブライター)