かつて「じゃやじゃ馬」と呼ばれたプロ野球選手がいた。巨人を中心に1940年代から50年にかけて活躍した故・青田昇さんである。引退後は阪神、阪急(現オリックス)でヘッドコーチを務めて両チームを優勝に導き、優勝請負人の異名を取った。その後も大洋(現DeNA)でコーチ、監督を歴任している。
青田さんは歯に衣着せぬ人物として知られる。1979年オフ、26年ぶりに巨人に復帰するや、当時の長嶋茂雄監督とともに、地獄の伊東キャンプで若手選手を指導した。ところが翌春、反社との黒い交際報道を巡って舌禍事件を起こし、シーズンを待たずして辞任した話は有名だ。
その後、野球解説者として活躍したが、珍発言で長嶋監督を困惑させたことがある。なんと、ミスターの長男・一茂とソフトバンク・王貞治会長の次女・理恵さんを、競走馬にたとえたからだ。
ある日、球場で評論をするため、巨人戦を観戦していた時のことだ。突然、記者席に座っていた巨人担当記者に対して、大声で次のような言葉を投げかけた。
「これまでのプロ野球界で人気、実力ともにON以上の選手はいない。野球界はその血統を絶やしてはいけない。だから長嶋にも王にも言ったんだ。『一茂と理恵ちゃんを結婚させろ』と。一茂は野球選手としてはダメだろうが、隔世遺伝ということがある。競馬のサラブレッドがいい例だ。最強の遺伝子を持った野球選手が誕生することは間違いない」
天下のONについてここまで言えるのは、あとにも先にも青田さんしかいないが、聞かされた記者連中は笑うわけにもいかない。
のちにこの発言を人づてに聞いたミスターも「青(田)さん、まだそんなこと言ってるの?」と苦笑いを浮かべるしかなかったという。
もし青田さんの言葉が現実のものとなっていれば、大谷翔平をしのぐ野球選手が生まれたのか。少々、興味深い話ではある。
(阿部勝彦)