阪神は8月16日に2位の広島を下して、優勝マジック29が点灯した。8月2~13日の10連勝が大きかった。巨人、DeNA、ヤクルトとの3連戦はすべて紙一重。どっちに転んでもおかしくない接戦を取った。というか、相手が勝手に転んだ面もある。
特にひどかったのが巨人。初戦は菅野が3回途中5失点でKOされ、打線の反撃も1点届かなかった。2戦目はブリンソンがホームランと思い込んで全力疾走を怠る単打で得点機を逸し、延長戦を落とした。3戦目は戸郷が1―0の力投を続けていた7回無死一、三塁で、一塁の中田が正面の牽制球を後ろにそらすという適時失策で同点、流れが一気に傾いた。
ボールから目を切ったらアカンというのは少年野球から散々言われてきたこと。中田はほんまは守備が上手な選手。牽制はないと思い込んでいたのか、マウンドの戸郷を見ていなかった。緊迫した展開で痛いエラーとなった。巨人は3連戦に勝ち越せば優勝争いに首の皮一枚残るところやったけど、3連敗で自力優勝の可能性が消滅。CS進出に目標を切り替えざるを得なくなった。
岡田監督は笑いが止まらん。「普通に戦えばいい」とよく口にしているが、ほんまその通り。相手が自滅してくれるんやから。今年の四球出塁数がリーグで断トツなのも、相手が厳しいところに投げないとアカンと意識しすぎている部分がある。逆に阪神はダブルプレーをきっちり取りきるとか、球際の強さとか、守り勝ちする試合が多い。
オリックスの山本由伸みたいな大エースがいるとか、ホームラン王、首位打者争いをする打者もいない中で、地味な強さがある。
ブルペン陣の層の厚さと安定感も10連勝で際立った。守護神の岩崎は10連勝中、8試合に登板して無失点の7セーブ、1ホールド。ピンチになっても顔色一つ変えずに淡々と投げ込んでくる。150キロの球を投げるわけではないけど、ストレートで押せるのが大きい。ゆったりしたモーションで右足をついてから、左腕が出てくるのが普通の投手より遅く、打者がタイミングを取りにくい。その独特のフォームに惑わされて、ストレートに差し込まれてしまう。
岩崎につなぐ中継ぎ陣の頑張りも目をみはる。だから、チーム全体に終盤の接戦になったら勝てるというムードがある。この夏場に存在感を見せたのが島本、加治屋、桐敷という面々。プロ2年目左腕の桐敷は他球団なら先発ローテに入ってもおかしくない力がある。スタミナ、馬力があるからイニングまたぎも平気でこなす貴重な左腕だ。
残り30数試合。よっぽどのことがない限り、リーグ優勝の確率は高い。気をつけなアカンのは主力のケガだけ。梅野が8月13日のヤクルト戦で左手首に死球を受けて骨折し、今季の復帰が絶望的となった。あれも厳しい言い方をすれば、逃げ方が悪かった。梅野に限らず、今の選手はエルボーガードをつけているから、向かってくる球に腕を隠すという意識が薄い。
あとは口酸っぱく言っているけど、ヘッドスライディングやダイビングキャッチの飛び込みによる自爆をなくすこと。怖々とプレーしろと言っているわけではなく、危険なプレーをする必要がないということ。それこそ「普通」にやっていたら、自然と優勝できるんやから。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。