東京・新宿にある新宿シアターモリエールは、最大キャパ190席ほどの小さな劇場だ。その小劇場で、鈴木砂羽の主演・演出による舞台「結婚の条件」をめぐって大事件が勃発したのは、同公演が初日を迎えた2017年9月13日だった。
コトの起こりは4日前の9月9日午後、舞台に出演する2人の女優、鳳恵弥と牧野美千子がインターネット生放送に出演するため、通し稽古を早抜けしたい、と制作サイドに申し出たことにある。しかし鈴木がこれを認めず、土下座を強要。それをきっかけに降板を余儀なくされたとして9月12日、鳳が自身のブログに「人道にもとる扱いを受けた」と告発したのである。
各メディアの取材に対し、鳳と牧野の所属事務所社長は、
「鈴木さんは『通し稽古を2回したかったのに、誰かのせいでできない!』と2人を罵倒した。脚本家の先生と牧野が頭を下げても納得いかず『ぬるいわね』と吐き捨てて、さらに2人を追い込んだ。結果、2人は土下座することになったんです」
2人の降板についても、
「11日になって突然、鈴木さんが決めた代役での公演が決定したと通告され、2人は降板ということになった。つまり、ウチは降りたのではなく、降ろされたんです」
そんな主張を展開したからさぁ大変。言った、言わない、された、されてない、の大騒ぎに発展することになったのである。
ところがエンタメの世界というのは不思議なもので、騒動が話題になり、舞台初日は150席が瞬く間にソールドアウト。舞台終了後、記者会見を開いた鈴木は、事実関係を完全否定。
「土下座させたということは全くございません。ここではっきり主張させていただきますが、人道的に彼女の人格や尊厳をめちゃくちゃにするような罵声を浴びせた事実は一切ございません」
舞台を手掛けた劇団主宰者・江頭美知留氏のマネージャーも報道陣に対応し、降板した2人の所属事務所社長から「公演を中止するか、鈴木によるパワハラでの降板だということを公式に発表するかを選択してほしい、と迫られた」として、その後もしばらく水掛け論争は続く。だが、両者にメリットがないことから、騒動はほどなくして終息することになる。ただただ、わだかまりを残す決着となったようで…。
それから1年後の2018年8月30日。鈴木は演劇ユニット「港・ロッ区」の公演「ロックの女」に出演した。記者会見に臨んだ彼女は、
「人生には予想もしていないトラブルもある。役者がゴネたり叫んだり、どうプロデューサーは対処すべきか、ものすごい勉強になった。今は感謝しています」
そのストレートな物言いにふと、また誤解を招かなければいいけどなぁ、と思ったのである。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。