深夜からゴールデンに進出した番組は、うまくいった試しがない。理由は、浅い時間に移動したことで、エッジの立った内容でなくなること。さらに、出演者も一般ウケする芸能人や有名人を追加し、結果、その番組本来の持ち味が薄まり、他番組との差別化をはかれなくなるからだ。古参のファンは「変わった」「つまらなくなった」と離れ、新規ファンも獲得できずに終了となる。深夜という独特な空気感によってしか生まれない魅力を、制作側が認識できていないことで生じる不幸といえる。
個人的に「深夜の時は面白かったのに…」と思った番組をいくつか挙げる。まずは「銭形金太郎」(テレビ朝日系)。個々の理由で貧乏生活を送っている「ビンボーさん」のもとにお笑い芸人たちが出向き、彼らの日頃の生活を観察するという内容だ。深夜時代は強烈なキャラを持った名物ビンボーさんが番組内から何人も生まれたものの、20時からのゴールデン枠に移動してからは、そこまでエグいビンボーさんは取り上げられなくなった。最終的にはビンボーさん紹介企画そのものが消滅する、という本末転倒ぶり。「マジでこんな生活してるの?」と引きつり笑いをしながらも「下を見て暮らす」という(不)健全な楽しみがなくなり、番組の魅力を失ったまま終了してしまった。
さらに「やっぱり猫が好き」(フジテレビ系)。もともとは火曜深夜に放送されていたものが好評を博し、第2シーズンからは土曜19時30分という浅い時間に移動。結果、深夜よりも人気が出ることなく、番組は終了した。
もたいまさこ×室井滋×小林聡美が「恩田三姉妹」を演じた、基本的に1話完結のシチュエーション・コメディードラマで、どこまでが台本でどこからがアドリブだか分からない3人の演技によって生まれる、ゆるい雰囲気が好きだった。平日の深夜、翌朝を気にしつつも、アルコールを体内に補給しながら、どうってことのない三姉妹の日常をボーッと見ながら、時折クスッとする心地よさが、なんともクセになる番組だったのだ。それが週末の夕飯時ではこちらが慌ただしすぎて、あの空気感を楽しむ余裕もない。
ここ最近では「有吉クイズ」(テレビ朝日系)だ。昨年10月、深夜から火曜20時に移動したことで、有吉は「全曜日ゴールデン&プライム帯に冠番組を持つ」という偉業を達成したが、番組内容は深夜の頃の方が格段に面白かった。
「スマホの検索履歴を調べて誰のものか当てる」クイズとか、みちょぱの私物の匂いを嗅いで当てるとか。みちょぱ本人が「やだぁ!」「バカじゃないの」と笑っていたのが最高だった。「有吉のプライベート密着クイズ」でオリエント工業の上野ショールームを見学し、ラブドールの「りりちゃん」とドライブデートする姿には爆笑したものだった。
ところがゴールデンに移動してからは、有吉が飲食店で無言で料理を食べ、店を出てから感想を(ほとんどがその味を絶賛)述べる「有吉とメシ」や、さほどキャンプの知識を持たないゲストが、火を起こすところや、飯ごう炊飯する様子をキャンプ上級者が採点する「ひとりキャンプ」といった企画が目立つようになり、深夜帯にあったノリが激減して魅力薄になっていた。
「ああ、このまま尻すぼみで終わっちゃうのかな」と残念に思っていたが、この10月から深夜に出戻ることが決定。これは朗報だ。
それに先立ち、9月10日に「有吉クイズ 深夜版」が放送された。
冒頭で有吉が「長いトンネルを抜けたようです」と感想を述べたその内容は「12箱のドル箱に分けられたパチンコ玉100キロを誰が持ち上げられるか」を当てる「持ち上げクイズ」と、有吉が、森田(さらば青春の光)、森(どぶろっく)、信子(ぱーてぃーちゃん)とともにファミレスでかるたを作成する「50音かるた作ったよクイズ」の2本。
特に「50音かるた作ったよ」は、テーマを「ちょっと艶っぽく」しようということになり、各々が例えば「(え)んしん力を利用して玉をぶつける」「(す)ぽっちゃみたいなものだから」「(と)んぼがね、突起物にとまったよ」「(ぬ)れたTシャツ、透けイクラ」などと挙げては大盛り上がり。しかし、収録場所のファミレス側から苦情が出たということで、お題を「自己啓発系」に変更するというオチが付いたりと、実に「深夜的」なノリに終始。「こういうのが見たかったんだよ!」と思わせてくれた。
深夜に戻ってパワーアップ。秋からも楽しみだ。
(堀江南)