人の営みが感じられない僻地にあり、周辺に何もない駅を鉄道ファンの間では「秘境駅」と呼ぶ。乗降客は「ゼロ」に近く、何のために作られたのか首をひねりたくなる駅だが、静けさを求めてわざわざ足を運ぶ鉄道好きも少なくない。
その多くは北海道をはじめとした地方にあるのだが、東京都23区にもそれに近い駅があるという。鉄道ライターの話。
「東京都北区にある京浜東北線の上中里駅は、都心の秘境駅といってもいいぐらいの寂れっぷりです。昨年の乗車人員の1日平均は6547人で京浜東北線の駅としては最も少なく、23区の駅の中ではワースト2(ワースト1位は京葉線の越中島駅)。隣の田端駅は3万7291人で王子駅は5万4084人ですから、上中里駅の利用者がいかに少ないかわかるでしょう。乗車人員が少ないので、一部の時間帯はインターホンでの案内になります。簡単に言えば無人駅ですね」
駅周辺は人家はあるものの、お店は決して多くないという。
「改札がある側は小さなロータリーがあり中華料理店があるのですが、反対側はコンビニが1店あるだけ。鉄道を利用する人以外は駅周辺にやってこないので、朝夕の通勤通学時でなければ人影はまばら。ずいぶんと寂しい駅前です」(前出・鉄道ライター)
そんな駅なら廃止になっておかしくないが、その可能性は低いと鉄道ライターは言う。
「これは鉄道好きの間でまことしやかに言われていることですが、上中里駅の東にはJR東日本の尾久車両センターがあり、職員の多くが上中里駅を利用しているので絶対に廃止にならないというのです。さらに東にある上野東京ラインの尾久駅は乗車人員の1日平均が9485人で、こちらも廃止されてもおかしくないのですが、同様の理由でなくならないと言われています」
東京23区の駅なのに孤独感が感じられる貴重な駅を一度訪れてみてはいかがだろうか。秘境駅がこんなに近くにあるのかと驚くことになるだろう。
(海野久泰)