コトの起こりは芸能マスコミ各社に届いた「意味深な速達」だった。送り主は峰竜太の妻・海老名美どり。その速達には〈私の〝重大決意〟をご披露いたします。11月17日 自宅にて〉と記されていた。1991年11月4日のことである。
通常、芸能人から記者会見の知らせが届き、それが「重大発表」となれば、結婚か離婚のどちらかだ。海老名は峰と結婚しているが、2人のド派手な夫婦喧嘩は有名なので、筆者を含め、大半の芸能マスコミ関係者が、彼女がこの会見で離婚を発表するのでは、と推測していた。
当日、自宅に詰めかけた報道陣は80人。テレビカメラは9台だ。午後3時、昼のワイドショー開始と同時に、白いセーターに赤いスカート姿で登場した海老名は、いつになく緊張した面持ちだ。
ところが、である。開口一番、彼女の口から飛び出したのは、その場を凍り付かせる、まさに「重大発表」だった。
「思うところがありまして、タレント活動にピリオドを打ちたいと思います。そして小さい頃からの夢でした、ミステリー作家になることを決意しました」
そう語るや、手に持った「ビッグアップル殺人事件」なる本をカメラの前にかざすと、
「夫の朝帰りが悔しくて『殺してやりたい』と、毒薬の本を8冊買いました。でも主人がほとんど帰ってこないので、夜中にたっぷり書く時間ができて…。もうドラマ化の話も来ているんです」
なんと、生放送で自身の著書をPRするという、前代未聞の暴挙に出たのである。もちろん、離婚会見と踏んで「速報・海老名美どり重大決意!夫婦危機?」とのテロップを流していた某ワイドショーは、この度肝を抜かれる肩透かしに即刻、生中継を中断。急遽、別ネタに切り替えた。とはいえ、冒頭の数分間のやり取りは、生中継で日本全国に流されることになったのである。
集まった報道陣からブーイングが巻き起こったことは、言うまでもない。筆者の隣にいたスポーツ紙記者などは、
「ウチはカメラマンを2人も出しているから、ベタ記事でも紙面を埋めなくちゃいけないけど、本来ならボツにするべきだよ」
と怒り心頭だった。だが、そんな空気もどこ吹く風。しまいには、
「お騒がせして、ど~もすみません」
と頭をかいた彼女だった。
その後、峰がマスコミの前で「お騒がせして申し訳ありませんでした」と頭を下げ、母親の海老名香葉子さんも謝罪するなど、大騒動に発展することに。誰が考えたのかは知らないが、まさにシャレでは済まない、とんだ茶番劇だったのである。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。