「任命責任」ほど、永田町で軽い言葉はない。岸田文雄総理は10月31日の参院予算委員会で、東京都江東区の木村弥生区長が公選法違反の疑いで強制捜査を受けた事件をめぐり、東京15区(江東区)選出の柿沢未途法務副大臣が関与したとして辞表を提出したことについて、「就任からまもなく辞表を出したことについて、任命責任を感じている」と述べた。
岸田総理は10月26日の参院本会議でも、山田太郎前文部科学政務官が国会開会前夜に20代後半の女性とホテルに行くなど、不倫関係に陥っていたとして辞任したことを受けて「任命責任を重く受け止めている」と陳謝したばかりだった。
本来ならば「任命責任」は重い言葉だが、岸田総理は閣僚の不祥事があるとよく使う。昨年2月にも、同性婚をめぐる発言で荒井勝喜首相秘書官(当時)を更迭した時も「もちろん私が任命したわけですから当然、その責任を感じている」と答えた。これ以外にも閣僚を更迭するたびに「任命責任は私にある」と繰り返してきた。
「任命責任はある」と言うと、神妙にしているように聞こえるが、実際には何か具体的な行動をとったことはない。ただ言うだけなのだ。
立憲民主党の蓮舫参院議員は「総理はずっと『適材適所』と言ってきた。その適材がボロボロと崩れている」と、嫌味たっぷりに批判した。民進党代表時代、人事下手で有名だった蓮舫氏に言われたくないだろうが、さらなる閣僚らの不祥事が出てくるかもしれない。総理として、ここは「忍之一字」あるのみだろう。
(喜多長夫/政治ジャーナリスト)