日本全国でヒグマやツキノワグマによる人身被害が多発しているが、ここで忘れてならないのが、クマと同じく目撃情報や人身被害が急増している、イノシシの脅威である。
環境省が公表している統計データによれば、2022年度に発生したイノシシによる人身被害は、過去最多となる81件(うち死者1人)を記録。2023年度も今年9月末時点での人身被害は、21件(暫定値)に上る。とりわけ被害が多発する12月から2月にかけての厳重警戒期間を迎え、悲惨な人身被害の劇的な増加が懸念されているのだ。
中でも憂慮されるのが、市街地や住宅街での被害だ。11月1日には鹿児島市内の通学路で、登校中の男子児童が体長約1メートルのイノシシに襲われて大ケガを負う「事件」が発生している。イノシシの生態に詳しい動物学者が指摘する。
「イノシシが狂暴化するのは、オスの場合は12月から2月にかけての発情期、メスは出産後の4月から6月にかけての時期です。中でも発情期のオスは殺気立っており、人間側が驚かせたり威嚇したりせずとも、目を合わせただけで襲ってくることがある。強い獣臭を放ちながら毛を逆立たせているオスは、特に危険です」
イノシシは非常に敏捷で力も強く、いわゆる「猪突猛進」するだけではなく、素早く方向転換することもできる。上下左右に1本ずつ、合計4本の牙(犬歯)があり、下側にある長い牙はナイフのように鋭く研ぎ澄まされている。
「興奮したイノシシは、噛みついたり牙を突き立てたりして、人間を襲います。中でも恐ろしいのが、オスが持つ下側の牙で、メスよりもずっと長いこの牙で太腿の動脈をやられると、出血性ショックに陥って、まず助かりません。ただ、木登りは下手ですから、万が一の場合は近くの木や壁などによじ登って逃げるといいでしょう」(前出・動物学者)
ちなみに、イノシシはクマのように「冬眠」することはない。その意味では人間にとって、クマ以上に厄介な野生動物と言えるかもしれないのだ。
(石森巌)