「そりゃあ、桜が咲いた後には毎年、タケノコ採りに行くよ」
嬉しそうにこう話すのは、岩手県在住の60代男性である。
秋田や岩手の桜の花が散り、タケノコのシーズンが始まる。ここで言うタケノコとは、正式にはヒメタケと呼ばれる、千島笹の根元から生えてくるアスパラガスぐらいの太さで、長さが20~30センチほどのものを指す。「根曲がりタケ」とも呼ばれ、皮を剥いて茹でて食べると、柔らかな食感を得られる。盛岡郊外の北上山地、櫃取り(ひっとり)湿原はタケノコの産地として有名で、冒頭で語った60代男性も、この時期には週に3~4回は車で向かうという。
シーズンになると、国道脇の路上には数十台もの車を見ることができる。毎年4月、5月になると秋田と岩手にタケノコ採りに来た人がクマに襲われた、というニュースが流れる。特に秋田の十和田市周辺は危ない地域として知られているが、毎年襲われているのだ。なぜ、クマの住み家と呼ばれる危険な地域に、命がけで行くのだろう。
「ニュースでは、美味しいから食べるために来ていると、おばあさんが答えていましたし、他のところでも(自分で)食べるためと答えていますが、ほとんどが嘘なんです(笑)。地元でもないのに、100キロも離れたところから通ってくる老夫婦もいました」
十和田市でタケノコ採りをしている60代の男性は、そう話す。では本当の理由は何か。この男性がニヤリとしながら明かしたのは、
「本当はお金になるから行くのさ。道路にはタケノコの仲買業者が車を止めているから、採ってきたタケノコはそこに売るんだ。便利だし、金を稼げるから命がけだといわれても、自分は大丈夫だと高をくくっている。(クマよけの)鈴も付けているし」
斜面に生えている笹は背丈よりも高く、びっしり。ほとんど視界がない。夢中でタケノコを採っていると、クマと急に出くわす機会が増えるという。
「鈴が鳴っていても逃げないクマはいくらでもいます。春は子グマが生まれた後で、子連れがいます。子グマを守るため、襲ってくる危険性があるんです。人間を食べた経験のあるクマは、自ら襲いにいく傾向があると聞きます」(秋田の猟師)
行政は入山規制をしようとしているが、迂回して山に入っていく者も少なくない。そして行方不明になれば莫大な費用をかけて捜索が始まる、というパターンが繰り返されている。
こんな捜索に税金が使われている現状を何とかしなければ、今年も来年もずっと続いていくことになりかねない。