国立感染症研究所のまとめによれば、昨年1年間の梅毒感染者数は、感染症法に基づく現行の調査が始まった1999年以降、最悪となる1万2966例を記録した。今年も先月末時点ですでに1万2000例を超えており、最悪記録の更新が目前に迫っている。
そんな中、梅毒にかかった妊娠中の母親から胎児に感染する「先天梅毒」も、増加の兆しを見せ始めている。同じく国立感染症研究所の統計によれば、今年1月から10月4日までに先天梅毒と診断された子供は全国で32例に上り、統計開始以降、過去最多を記録した2019年1年間の診断者数23例をすでに上回っているのだ。
先天梅毒は流産や死産の危険性が高まるほか、生まれた子供に低体重や骨の異常、聴覚や視覚の異常、さらには知的障害など、深刻な事態を引き起こすことで知られる。しかも先天梅毒は、妊娠後に治療を受けても胎児への感染を防ぎ切れない、という厄介な特性も有している。梅毒や先天梅毒に詳しい、産婦人科医の専門医が明かす。
「まず、妊婦検診をいっさい受けず、梅毒に感染したまま出産した場合、先天梅毒の赤ちゃんが生まれてくる確率は、実に約40%にも達します。しかし、妊婦検診と治療を受ければそれで安心、というわけではありません。妊娠後に治療を受けても、約14%の胎児が先天梅毒を持って生まれてきてしまいます。しかも国立感染症研究所が公表している数字は氷山の一角にすぎないと、私は実感しています」
ならば、どうすればいいのか。この専門医が続ける。
「最も大切なことは、パートナーも含めて、パートナー以外との性交渉は慎むことです。これに勝る対処法はありません。その上で妊娠前、つまり子供を作ろうとする前にパートナーともども、梅毒の検査を受けることです。ハッキリ言って、梅毒に感染したまま妊娠してからでは遅い。妊娠後の妊婦検診で梅毒の感染が見つかったあげく、夫婦が診察室で繰り広げるスッタモンダの修羅場を、何度も経験してきました」
生まれた子供はむろんのこと、その後の親の人生をも台無しにする先天梅毒。「親の因果が子に報い」では、それこそシャレにすらならないのだ。
(石森巌)