最初にクイズです。1986年のチェルノブイリ原発事故以降、ヨーロッパで増えた野生動物はなんでしょう?
2011年の福島第一原発事故後、東北地方では逃げ出した家畜の豚と野生の猪が交配し、イノブタが繁殖したといわれる。イノシシとイノブタの繁殖によって山の樹木が荒らされ、さらに今年の猛暑によるエサ不足でクマが人里まで下りてきているのは周知の通りだ。
11月29日配信の「読売新聞」群馬県版では、10月にクマに襲われて顔の半分の皮が剥がれ落ちた住人の証言が紹介された。エサ不足で冬眠できないクマに襲われる事故は、12月に入っても予想される。
クマが人里まで下りてきた理由は、今年の猛暑とイノシシの生息域拡大だけではなさそうだ。
犬の飼育頭数が減少を続けており、2020年にはとうとう猫の飼育頭数が犬を上回った。特に深刻なのが、海外では大人気の「秋田犬」の減少だ。
秋田犬といえば、2009年にリチャード・ギア主演で、ハチ公をモデルにした「HACHI 約束の犬」が上映され、海外でも人気を博した。特にロシアでは秋田犬が大人気で、プーチン大統領の愛犬5頭のうち1頭が、東日本大震災の支援のお礼に贈られた秋田犬「ゆめ」。平昌五輪女子フィギュアスケート金メダリストのアリーナ・ザギトワも、秋田犬を飼いたいとの希望に応じて、日本から1頭が贈られている。
だが2011年には、秋田犬の日本国内の頭数は2038頭にまで激減。2022年でも2185頭と、秋田犬の保護活動をする各団体は「もはや絶滅危惧種の域」と危機感を強めている。そして絶滅危惧種予備軍の国の天然記念物なのに、飼い主が「飼いきれなくなって殺処分される」不幸な経過をたどる秋田犬もいる。
ロシアで秋田犬が人気なのは、寒さに強く広い自宅で飼えることと「クマを追い返す」からだ。体格差があるため秋田犬がクマを噛み殺すことはないが、日本でも猟師の相棒の「マタギ犬」として知られるように、人間のクマ狩りやイノシシ狩りで獲物を追い詰めることができる。大型犬の鳴き声にクマが怯むし、クマが近づけば吠える。
一方、日本の飼育犬登録数を見てみると、今年クマの被害が相次いでいる東北から北陸までの日本海側で、犬の飼育頭数が激減している「因果関係」がみてとれるのだ。特に秋田、山形、福島では毎年1000頭単位で飼育頭数が減っている。
「朝、家の外に出たらクマがいて、襲われた」
と今年よく聞くクマ被害も、クマの天敵たる大型犬を飼わなくなった弊害と言えるだろう。
さて、冒頭のクイズの答えはというと…野生のオオカミ。チェルノブイリ周辺ではオオカミが増殖したおかげで、野生のヒグマの生息域が拡大せず、シカなどの害獣の繁殖も抑えられている。
気がかりなのは、クマ出没地域のライフラインの老朽化だ。1970年代に整備された全国のライフラインは、すでに老朽化の目安といわれる40年を過ぎていて、自然災害や経年劣化である日突然、ライフラインが破損すれば、集落ごとゴーストタウンになる。犬はいなくなり、クマも駆除したとあっては、天敵のいなくなったイノシシが山村で増殖し、映画「もののけ姫」のように、イノシシの群れが地方都市を襲う日が来るかもしれない。
(那須優子)