アフリカ勢が驚異的なタイムを更新する男子マラソンにあって、日本の選手たちに希望的観測はなかなか出てこない。なにしろ世界とは、あまりにも大きな差があるからだ。来年のパリ五輪に出場する顔ぶれを見ても、その自己最高記録には溜め息が出てしまう。もちろん、マラソン界の重鎮も黙ってはいられなかった。(10月17日配信)
10月15日に行われた来年のパリ五輪マラソン選考レース、MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)は、今大会から男女ともに賞金(1位1000万円、2位500万円、3位250万円)レースになったことで、前回(2019年)から比較すると、出場選手が大幅に増えた。
男子で優勝した小山直城(2時間8分57秒)、2位の赤崎暁(2時間9分6秒)はともに五輪初出場となるが、2人について「この記録では世界と戦えない」とバッサリと切り捨てたのが、日本陸上連盟の瀬古利彦ロードランニングコミッション・リーダーだ。
もともと五輪のマラソン競技は日本のお家芸だったが、なぜこんなにも弱くなったのか。男子のマラソン競技が弱体化した一番の理由は「駅伝」だ。
「特に箱根駅伝は、関東の主要大学が毎年中学、高校生の有力ランナーたちをチェックして『青田買い』をするんです。トップレベルのランナーたちにとってはまさに売り手市場で『A大学が特待生の条件だけではなく、就職の世話もしてくれた』なんて平気で言う学生もいます」(ある大学の駅伝部監督)
そんなランナーたちは、4度チャンスがある「箱根駅伝」の出場に向けて有力校に入学するわけだが、
「箱根駅伝でスターだったランナーが、実業団に入ってマラソンでもトップレベルに上り詰めた例は、今回のMGCで現役復帰した大迫傑、そして15キロ地点までは日本新記録ペースで盛り上げていた川内優輝ぐらいじゃないですか」(陸上競技担当記者)
箱根駅伝の出場ランナーは、ほとんどがそこで燃え尽きてしまうのが現状なのだ。MGCの男子で優勝した小山などは「パリでは必ず入賞(8位)以上を目指したい」というレベル。惨敗確実の日本マラソン界にあって、MGCは単なる賞金レースに成り下がってしまった。
(小田龍司)