日本の正月といえば箱根駅伝。初春の箱根路を精鋭20校と関東学生連合が1月2日と3日に駆け抜ける。今季の大学3大駅伝は、出雲路が東海大、伊勢路を神奈川大が制し、4連覇に挑む青学大は2位、3位だった。第94回大会は、往路、復路、総合の優勝校が全て異なる「10年に一度の大混戦」となりそうだ。
【1】10年に一度の大波乱!
「どこもレベルが上がっている。戦国時代ですよ」
こう話すのは、昨季の東京箱根間往復大学駅伝競走を制し、3連覇を達成した青山学院大学の名将・原晋監督(50)だ。スポーツ紙デスクが解説する。
「11月の全日本大学駅伝後のこと。前季、青学大は大学3大駅伝(出雲、全日本、箱根)の3冠に輝き、箱根は往路と復路を制しての完全優勝でしたが、今季は無冠。ダブル看板の一人、下田裕太(4年)の調子が上がってこない」
ただ、もう一人の支柱の田村和希(4年)は、出雲、全日本ともに区間トップと安定した走りを見せた。
スポーツライター・折山淑美氏の見立てはこうだ。
「二強プラスワンと見ています。1万メートルやハーフマラソンの記録や経験などの総合力から、青学と出雲の覇者の東海大、そこに全日本を制した神奈川大が絡んできた。特に東海大はスピードがあり、往路から一気に飛び出して逃げきってもおかしくはない。とはいえ、それぞれに絶対エースの不在や山の上り下りへの不安なども抱え、波乱が起きても驚きません」
2代目山の神の柏原竜二氏をスカウトし、成長を見続けた東洋大学陸上競技部・長距離部門の佐藤尚コーチも「今回は3つのタイトルが別々の優勝校になってもおかしくない」と話す。
過去、往路、復路、総合の各優勝校が全て異なるケースは7回あり、74年は日本体育大の6連覇阻止、06年は駒澤大の5連覇の夢が破れた。今回は10年に一度の大波乱の可能性も!?
【2】白熱の「バトルトーク」
12月10日、前大会5位までの監督が集うイベントがあり、ヒートアップした。バトルの口火を切ったのは前回5位も、今季の伊勢路を制した神奈川大の大後栄治監督(53)だ。
「(エースの)鈴木健吾(4年)と山藤篤司(3年)、はっきり言って1区、2区で行きます。とにかくハイペースに持ち込み、ガンガン行きたいと思っています」
前回4位の順天堂大の若き指揮官・長門俊介監督(33)も「3本柱で往路を戦いたい。主将の栃木渡(4年)は、状況が状況なら序盤にぶち込みたい」と会場を沸かせば、「(うちも)1、2区からガンガン行くしかないでしょう」と、名門・早稲田大学を率いる相楽豊監督(37)もまた、往路勝負を匂わせた。
対する青学大の原監督は「箱根だけは譲れない!」と、恒例の「大作戦」名を明かして応戦。
前出・スポーツ紙デスクが振り返る。
「今回は『ハーモニー大作戦』。出雲(3位)も全日本(2位)も、流れがかみ合わなかったので、箱根は、じっくりと10区間のラインナップを検討して挑むということでした。ただ、Wエースの起用区間の明言は避けた。ライバル校が先行・逃げきりを示唆する中、青学大は好位からのまくりを狙いそう。12月29日の区間エントリーが楽しみです」
【3】花の2区にエース集結
前大会から山上りの5区が23.2キロから20.8キロに短縮されたこともあり「花の2区」の重要性が増す。
「好メンバーがそろい、久しぶりにエースがぶつかり合う『花の2区』という感じです」(折山氏)
スピード自慢の留学生を抱える山梨学院大と拓殖大に対し、神奈川大、順大、東洋大、駒大などがガチンコバトルを展開する。
「注目は神奈川大のエース・鈴木健吾(4年)です。全日本の最長の8区(19.7キロ)での逆転劇は鮮やかで、タイムも日本人歴代2位の好記録。現役学生ナンバーワンの称号を証明した走りでした。そこで区間賞に輝いたのが山梨学院のケニア留学生のドミニク・ニャイロ(3年)です。この一騎打ちは見ものです」(スポーツ紙デスク)
拓殖大にはエチオピア留学生のワークナー・デレセ・タソ(3年)、順大には塩尻和也(3年)が控える。
「デレセは前回の2区で10人抜きの2位。塩尻は現役唯一のオリンピアン(リオ五輪3000メートル障害)で、前回は8人抜きの5位と、ともに下位からタフさを要求される状況での快走。ただ二人とも、箱根の醍醐味のごぼう抜きよりも『トップ争いをしたい!』と話しています」(専門誌編集者)
カギを握る1区は、今回もスローが予想される。
前出・東洋大の佐藤コーチいわく、
「前回、うちは1区にエース服部弾馬を投入してトップ通過も、わずか1秒差。酒井俊幸監督(41)の指示はもっと早めの仕掛けで、本人も『行きます』と話していたが、結局はラスト勝負。彼でも動けないのが箱根のプレッシャーです。でもスロー予想だろうと、エース級を出し惜しみすると致命傷になることもある」
1区の駆け引きが2区の激闘を演出しそうだ。