関西はまだ阪神の38年ぶり日本一の余韻に浸っている。11月23日には大阪と神戸でオリックスと入れ替えで優勝パレードを行い、延べ100万人が集まった。僕も後日、大阪市内のホテルで開催された球団の優勝祝賀会に招待され、喜びを分かち合ってきた。選手はテレビ出演やイベントに引っ張りだこ。12月中旬にはハワイへの優勝旅行も控えている。契約更改でも年俸の大幅アップが続出するはず。まさにバラ色のオフやね。
勝つ喜びを知ると、来年も絶対に勝ちたいと思うようになる。逆に、今年勝ったことで満足しているようでは、黄金時代なんて作れない。前回の1985年の日本一では翌年に3位。87年には最下位に転落した。その苦い教訓を生かして、今回こそ球団初の連覇を達成しなアカン。
そのためには一人一人が自覚を持つこと。ルーキーイヤーで最高の経験をした森下翔太も「2年目のジンクス」に気を引き締めて立ち向かってほしい。ドラフト1位で入団して、94試合に出場。打率2割3分7厘、10本塁打、41打点。この数字以上に活躍した印象が強い。なんせ、いい場面で打つ勝負強さを持っている。岡田監督の期待も大きいし、来季もレギュラーとしてやってもらわないといけない選手。オフの過ごし方が大事になってくる。
日本シリーズ後は若手中心の日本代表としてアジア杯に出場していたから、チームの秋季キャンプは不参加やった。本来ならキャンプでじっくり課題と向き合った練習ができていればよかったんやけど。
それでも、絶対に直さなアカンようなところはない。岡田監督からはシーズン中に「ボールを振るな」とよく叱られていた。確かにボール球に手を出す傾向があるけど、もともとの選球眼は悪くない。ボールに食らいついていく気持ちが人一倍強いので、ストライク以外でも振ってしまうんやと思う。その向かっていく気持ちが、いい方向に出ることもある。日本シリーズの第5戦で宇田川から放った逆転の2点三塁打も、見逃せばボールの低めのストレートをしばき上げた。日本シリーズで叩き出した7打点は歴代の新人最多記録となった。
森下の場合は全体的なレベルアップを図りながらも、あまり考えすぎんことが大事やと思う。短所を消そうとして、長所まで殺してしまうのがいちばんアカンこと。自主トレから下半身をしっかりいじめて、春季キャンプでバットを振り込めば、めちゃくちゃ悪くなることはないはず。
一つ苦言を呈すなら、もうちょっと走塁の意識を高めてもいいかな。今季のたった1盗塁はさすがに少なすぎる。岡田監督がサインを出さなかったのは、成功する気がしなかったからやと思う。近本や中野ほど走らなくてもいいけど、10個ぐらいは走れるはず。3番の打順で4番大山の打席では走りにくいのもあるが、相手バッテリーに「こいつは走らない」と思われたら集中されて、打者を助けられない。足の遅い野村克也さんでも隙あらば走っていた。「もしかしたら」と相手に思わせることが大事なんや。
宇田川から三塁打を放った際のベースランニングを見ていても、足は遅い方ではない。外野の守備はしっかりしている。森下が走塁意識を高めて三拍子そろった選手に成長すれば、阪神の黄金時代も見えてくる。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。